teratotera

「人と人、街と街とをアートでつなぐ」 中央線沿線地域で展開するアートプロジェクト

2017【アーツ確認中】シンポジウム西を動かす

シンポジウム/トーク

東京でありながら都会でも地方でもない“ 中途半端” な地域・西東京。多くの美術大学があり、ユニークな活動をしている施設が点在していて、面白いアートに触れられる機会もあるのに、多くの人が都心の美術館へ足を運ぶのはなぜでしょうか?西側に住む人が東側へ向かう際、「東京へ行って来る」と言ってしまうのはなぜなのでしょう?八王子や多摩、小金井といった西東京に、東側と同じような求心力はありません。ですが西側でしか作り得ない人との関わり方、距離の近さ、仕事のあり方、豊かさがあります。大きな転換期を迎える2020年に向けて、その地域資源を生かし、まちに変革を起こすことはできるのでしょうか? 東京西側のポテンシャルを探るシンポジウム「西を動かす」が、12月1日( 金) に開催されました。
会場は、近い将来アート業界を支えることになるであろう若者たちが集まる東京都小平市にある武蔵野美術大学。参加者の中にも多くの学生の姿が見られました。彼らが卒業・就職を機に都心へ向かわず西側にとどまるメリットを提示したいところです。パネリストに、NPO法人AKITEN の代表で八王子市議会議員の及川賢一、株式会社モーフィングの酒井博基、多摩信用金庫 地域連携支援部長の長島剛、NPO法人アートフル・アクション事務局の宮下美穂と異色の顔ぶれが揃いました。ここにTERATOTERAのディレクター小川希がモデレーターとして加わり、多角的な視点から西東京を解読。そしてまちの機能や力を引き出す方法を探りました。(石水典子)

///以下、トーク内容の抜粋///

■小川: 今日は「西を動かす」と題して、東京の西側でアートを介した活動をされている方々をお招きしました。2020年のオリンピックに向けて西側でどういった動きができるのかについて話していきたいと思います。

■酒井: 株式会社モーフィングの酒井と申します。モーフィングは武蔵野美術大学の学生が在学中に、美大生と社会を繋げたいと国分寺で立ち上げた会社です。今年で11年目になります。「PARTNER」という美大生向けの総合情報メディアや、「BAUS」というクリエーター向けのプラットフォームを運営しております。
今日は「西を動かす」というテーマなので、私なりに地域での働きかたについて考えてきました。自分を中心にした距離感で、問題意識が変わってきます。半径5m以内が家庭内、500mぐらいが生活圏内で、地域は5km ぐらい。500km以上は日本と世界の問題かなと思っています。なので、半径5km以内に家庭・生活圏と地域、プライベートと仕事が織り混ざる形になっています。自分がアクションしたことが自分の生活圏内、地域を魅力的にしていくことが、地域での仕事の特徴と思っています。

■宮下: NPO法人アートフル・アクションの宮下と申します。小金井市が芸術文化振興計画と芸術文化振興条例をつくった時に、その理念を実現するのは市民であるということから、その担い手としてアートフル・アクションが2012 年に発足しました。小金井市の委託事業などを受けつつ、武蔵小金井駅近くの「KOGANEIART SPOT シャトー2F」でカフェとギャラリースペースを運営しています。今年(2017 年)3月から、中村研一記念小金井市立はけの森美術館に併設されたカフェの運営もやっています。それぞれの事業が垣根がなく運営されているので、例えばギャラリーに来てくれたアーティストが、委託事業で学校にアーティストを呼ぶきっかけとなったりとか、カフェのお客さんが新しいプロジェクトを持ってきてくれたり、地域の環境問題について教えてくれたりということが日々起こっています。最低限のルールを守ってくれたら、基本的に何をやってもいいよと言っているので、市民がそれぞれの関わりと責任の中で、ヒエラルキーのないフラットな状態で事業をやっています。私たちが模索している公共性、あるいは公共圏は行政の力では作り出すことはできないもので、顔の見える市民同士がそれぞれのアイデアで、公共的な活動をしている。そこが端的な特徴なのかなと思っています。

空き店舗をアートで活用、商店街再生へ

■及川: 我々(NPO法人AKITEN)の活動の発端は、八王子駅前の商店街に空きテナントが増えていたことです。空きテナントのオーナーに「ただで貸してください。僕らが商店街に人を呼びますから」と話して、僕らが空きテナントに入り込む。最初にやったのは、空きテナントをアートギャラリーとして使うことです。そこにアーティストに入ってもらって、こういう使い方もあると気づかせることができる。空きテナントを障害者の就労支援のためのカフェにした事例もあります。空き店舗を障害者の施設として使うには東京都のバリアフリー条例が厳しかったのですが、僕が市議会議員なので議会で提案して、八王子市ではバリアフリー条例を緩和されるように働きかけました。行政や街づくり会社と一緒に頑張っていたら、空きテナントの数が減って、今は「テナントを探している」と依頼が来てもなかなか紹介できないくらいになりました。
「西を動かす」ということに関していえば、僕らは八王子を拠点に活動しています。八王子の魅力は都会が持っていない山や川、畑や田んぼをたくさん持っていて、また一方で、田舎が持っていない街並みとか人口を持っている。これをうまく見せることができると、八王子の魅力をもっと活かしていけるのじゃないか。この理想像を行政に対しても提案していく。市もシティプロモーションをしているので同じ方向を向きながら動けているのかなと思っています。行政が動きにくい場合は、僕らが動いてしまうし、行政の力も必要な時にはNPO としても提言し、また議会でも提言もするということで、いい感じで行政と付き合いながら、街づくりをしています。

■長島: 私は多摩信用金庫の地域連携支援部に勤めています。市役所や大学、大手企業や中間支援機関、国などにいろんな活動をしようと話をさせていただいて、それをプロジェクトにしています。いま数十本のプロジェクトが動いてます。「西を動かす」ということなので、多摩地域の特徴を共有したほうがいいかなと思い、4つの特徴をまとめてきました。まず緑が多いこと、次に大学とか高専が多いこと、芸術文化人がいっぱい住んでいるということ、それから研究開発型の企業が結構あるんです。そこに26 市3町1村と、30 の市町村があって、7つの商工会議所と21 の商工会がある。そこに420 万人もの人がいる。残念ながら都庁は新宿にある。一生懸命にどうしようかと悩んでいる人もいるのは確かなんだけれど、そこそこ豊かな街なので危機感があまりない街だと思います。人口とか、従業員数、製造品出荷額とか見ると、47 都道府県と比べると10 位ぐらいにいるわけですね。地域の問題としては、子供、コミュニティの課題が満載でNPO が多くなっています。私がやってきたことの中で、他の方々と重ならないことをお話すると、市役所の皆さんを集めて勉強会をやってきました。市役所が金融機関を集めるのは日本中に結構あるんですが、その逆はあまり例がない。東京都の中で、市町村とか23 区が集まって何かをやろうというと、場所は都心になるわけです。でも青梅とか奥多摩の方々はなかなか行けない。それであれば立川あたりで都心と同じクオリティーのものを、ということで、我々が東京都や国の施策を勉強してきて、それを市役所の皆さんにお伝えしています。こういう場づくりをNPO や市民団体にもやっていただければ、もっと広がるんじゃないかなと思っています。

■小川: 2020 年に東京オリンピックが開催されるので、いろんなイベントが起こってくる。オリンピックの会場は東側にありますが、2020 年を機会として西側でもいろいろな動きが起こってきたら面白いと思います。そのときに、西側にはこういうものが足らないというものがありますか。

■長島: 足りないものはもうないというぐらい、行政も含めていろんな人がいろんなことをやっていると思います。もう少し(そうした動きを)組み合わせていくとか、出会いを作っていくと、もうちょっと活性化していくと思いますけど、豊かに暮らしていればいいかなと思う人もいるわけだから、なんかやろうという方向だけじゃなくてもいいのかもしれない。例えば外国の方に来てもらえる観光スポットにしたいという話が出てきますが、それを好まない人もいるはずなので、中庸をとっていく感じでやっていければいいと思います。

美術大学をつないで可能性を探る

■小川: 酒井さんは自分の身の回りを楽しくすることが原動力としてあると話されていましたが、まだ楽しさが足りないという感じなんですか。

■酒井: 楽しさが足りないわけではなく、例えばクリエーターと仕事しても、自分たちが収めたものがどういうふうに流通して、誰の手に届いているのか、自分の生活の圏内にどういう影響を及ぼしているかが実感できない。地域に対して還元できる仕事が増えてくるといいなと思って、意識的に作っていっている感じですね。この地域の特徴を考えると美大が多いんですね。武蔵野美術大学に多摩美術大学、東京造形大学もあります。これをつないでいく仕組みができてくると、何か可能性が出てくると思います。モーフィングは今年オフィスを都心に移転したんですが、国分寺で創業した会社です。国分寺はいい距離感で都心にも近いし、多摩地域とか美大生にとって交通の結節点だなと思うんです。そこで、国分寺に美大生達がいろんなプロジェクトを仕掛けていけるスペースを(2017 年)10 月にオープンしたら、大手の企業がコラボレーションしたいといってくる。そういう状況が徐々に作り出せている感じです。

■小川: 宮下さんは西側になにか足りないものを感じていますか。

■宮下: 西側というより、自分たちのことを考えると、出自が小金井市の計画だったりするから、ずっと小金井市民を相手にしているみたいなプロジェクトの運び方ですね。内向するなかで出て来る力を蓄えることもあるんだけど、閉塞感にもなっている。流動性を高めるためには、個人的にも、NPO としてももう少し活動エリアを広げていきたい。例えば私たちが札幌のプロジェクトをやってもいいと思うし、来年はヨーロッパやアジアの人に来てもらって展示をしようと思っています。そこで私たちが力を蓄えたり、経験を積むことが西側への貢献につながっていくならば、そういうやり方もあるかなと思います。

■小川: 西側って遠いからなかなか人が来てくれないという常套句があります。でも、(東側から)そんなに遠くないし、住んでる人も多い。西側に美術館なんかがあってもいいんじゃないか。及川さんは市会議員で文化的な活動もなさっていて、そうした現状をどう見ていますか。

■及川: 東京都も国も西側には文化芸術施設をほとんど持ってないですよね。八王子で活動していて街の魅力を伝えようとすると、デザインやアートでその魅力を気づかせることが必要なんだけど、そもそもその需要がない。普段から街の中にデザインもアートも少ない、ないから需要が育っていかない。自分たちのようないくつかの団体が活動を続けてきて、やっとクリエーターが少しずつ住み続けてくれるようになった、というのがこの1、2年くらいの変化かなという感じですね。

■小川: 僕も吉祥寺で自分のアートスペースをやっているんですが、地元の人は全然来ないですよ。武蔵野市の人もアートを見るときには、もっと都心に行くんです。西側の芸術的な指数みたいなものが低いのかな。長島さんはどう分析されていますか。

■長島: わかんないですね。でも芸術家の人と話をしていると、「実は私小平なんですよ」とか「実は私、ここ(多摩地域)に住んでいるんですよ」みたいな話はしょっちゅう聞くんです。都心にいる人たちの3分の1ぐらいは多摩にいるわけですよね。

■小川: 大きい施設がないから、小さい施設でやっていくことしかできないんだけど、そこに入った人しか楽しめない状況になっているのがもったいない。それをブレイクスルーする手段はないのでしょうか。

■酒井: 文化的なイベントと言っていいかわからないですけど、美大の学園祭には人が来ますよね。街の人も来るし、都心からもデザインとかアートとか関心がある人が来る。注目すべきだなと思いますね。大学も地域に開いていったり、大学同士が連携して、そこに民間も関わっていく仕組みができれば、と思うんです。

■小川: ヨーロッパだと大学が結構中心となって文化を動かしてる。西側に美大がそろっているならば、学生が芸術的にこの地域を引っ張っていけるんじゃないかと思うんです。

■酒井: 地域で文化がしっかり醸成されると、学生は卒業してからも自分にとって大事な場所として位置付けられる。地域に還元されることが大きくなってくると思います。

■及川: 八王子は日本でも1、2を争う学園都市です。でも、商店街とか企業側も学生に対して期待と失望が入り混じった状態になっている。途中でプロジェクトが頓挫してしまったりとかで、大学とは二度とやりたくないみたいな「黒歴史」があったりするんですよ。その歴史を変えようと、学生を商店街に連れて行って、商店主と一緒に新しいプロダクツやプロモーションを考えさせたんですけど、成功したのは半分ぐらいでした。学生の就職については、八王子の学生が卒業後も八王子に住んで就職してくれたら返さなくていい奨学金を議会で提案して、実現しました。毎年50~60人ぐらいですかね、それを取得する学生がいます。その学生に市内の企業を紹介することにも力を入れています。

多様な人々の個性が触れ合う地域へ

■小川: 西側がもっと面白く動いていくことに、皆さんビジョンとか希望とかありますか。

■長島: 多摩地域って一言では言えない街で、いろんなことを考える人もいっぱいいる。ややこしい街だから、やりたいという人がいたら、その人たちをつなぎ合わせていくことが仕事かなと思っています。画期的に活性化していくことを望んでいない人もたくさんいるわけだから、そういった意味では個人の個性とかが豊かに触れ合えるような街にしていくのが一番いいんだろうなと思っています。

■及川: 東京の東側で通用することって日本のトップで、世界にも通用することなので、同じことを西側でやっても意味はない。西で何か動かすんだとしたら、西でしかできない暮らし方や働き方、学び方、過ごし方とかをやって、その個性を出していく。都会と田舎の両方持っている強さを出していくことかな。

■宮下: 私たちがカフェを運営している「はけの森美術館」は、洋画家・中村研一の遺族から小金井市に寄贈された美術館です。私は興味がなかったのですが、にわか勉強をしてみたら、藤田嗣治が訪ねてきていたりとか、大岡昇平が近所に住んでいたりとか、結構面白さがあるかもと思い始めています。自分の足元を丁寧にトレースしていくと、密度の高い場所とか出来事というのは生まれてくるんじゃないかなと思っています。

■及川: 今日は、違う角度から西を動かそうとしている人たちと話して、自分が見えてなかった視点や、自分が持っていたポテンシャルに気づかされました。参加者もいろいろ混ざってきて、そのつながり方を踏ん張ってやっていけば、よりダイナミックな動きになってくるのかなと思います。

開催概要

日時:2017 年12 月1 日(金)18:00 ~ 19:45
会場:武蔵野美術大学 9号館5階515教室(東京都小平市小川町1丁目736)
パネリスト:及川賢一、酒井博基、長島剛、宮下美穂
モデレーター:小川希

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