teratotera

「人と人、街と街とをアートでつなぐ」 中央線沿線地域で展開するアートプロジェクト

TERATOTERA祭り2017
Neo-political 〜わたしたちのまつりごと〜 ART

パフォーマンス

スクリーンショット 2021-03-30 6.40.07有賀慎吾《Unknown Material lab》
まず、展示会場に足を踏み入れるのに勇気がいる。雑居ビルの一角で扉もないのだが、一歩踏み込むと、そこは異様に静かな空間。無表情の白衣の女性から手渡されたカルテに簡単な情報を書き込むと、再び沈黙の時間が訪れる。なかなか名前を呼ばれないので、部屋の中をうろつくと、何かの製造過程が見えてくる。黄色のきのこ、黄色い石、ぐつぐつと煮える液体からは蒸気が上がっている。これは……。不安感でいっぱいになった頃に名前を呼ばれ、黄色の液体を渡される。これを……? 躊躇していると、白衣の女性は静かに話した。「飲むも飲まないもあなたの自由」。とりあえずぐっと飲み干し、釈然としないままその場を後にする。白衣の女性はずっと遠くを眺めている。(前川遙子)

 

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うらあやか《葬式のあと、赤ちゃんの話をして少し大丈夫になったから》
「初めて自分の悩みのようなものを作品にした」。頬を赤らめたうらあやかが、打ち上げの席でそう口にした。彼女の作品は玉川上水緑道で行われたパフォーマンス。作家と観客は正反対の方向を向いた状態で横に並び、行きはカウントアップ、帰りはカウントダウンをしながら、ともに一本道を行って帰って来る。そして最初の場所に戻ったとき、行きと帰りの歩数の差が記され白いボタンがひとつ縫い付けられた黒い布が観客に渡される。体験を終えた観客の多くが「結構差が出た」とか「後ろ歩きがこわかった」と呟く。その表情は皆どこか曇りがちだ。
うらの「自分ではどうしようもない」という気持ちは作品を通じて参加者に伝播し、そのもやもやを受け取った参加者はしばらく立ち止まり思考していた。それはまるで、打明け話にどう応えようかと観客が考えているように見えた。作品を通じて彼女の悩みは、彼女だけのものではなくなっていったのかもしれない。(宮﨑有里)

 

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江上賢一郎 × Michael Leung《路上の学校》
三鷹駅北口を出たすぐのところに小さな広場がある。交番横のこの空間に3日間だけ現れた掘立小屋が江上賢一郎の「路上の学校」。ルールだらけで窮屈になってしまった路上を解放し、新しい路上の使い方を学ぶ場所である。1日目はフィリピン出身で現在日本に移住して以降、ラジオを介し一般市民の目線で報道活動を行なっているジョン・パイレーツをゲストに迎えて〈独立ラジオの作り方〉を学び、2日目は香港で屋上庭園や公共の屋台運営など様々な路上空間の実践を行っているマイケル・ルンをゲストに迎えて「Urban Interventions(都市的介入の技法)」について語り合った。3日目は『完全自殺マニュアル』で知られるライター鶴見済をゲストに迎えて「0円ショップ in 三鷹」と3日間それぞれ内容が異なるカリキュラム。
通りゆく通行人が足を止め、話を聞いたり、作業をしたりと、通行のための空間が解放され新しい空気が流れ込む。 参加者はこの路上に生活の場、社交の場をみたであろう。(山上祐介)

 

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off-Nibroll《a world》
「a world」は、振付家・矢内原美邦と映像作家・高橋啓祐のユニットoff-Nibroll の作品。世界各地で矢内原が振り付けた人々の歩く姿を、高橋が映像化した。2010年の制作だが、今回、TERATOTERA 祭りのテーマに応じて再構成された。
会場は旧製麺所の倉庫。人の営みの痕跡をとどめる空間に時を刻む音が響く。暗闇におびただしい数の光のシルエットが動いている。それは人々がどこかに向かって歩く姿だった。それぞれのスタイルでのパレードは続く。5台のプロジェクターを駆使して映し出される、圧倒的な人の群れが、複雑に絡み合い、蔦が這うように壁や床を覆い尽くす。やがて眩まがゆい人影の群れはフォーメーションを変え、暗い海に浮かぶ五つの大陸を形作る。その楽しげで希望に満ちた煌きらめきは極夜をも照らす灯りとなる。(前川順子)

 

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中崎透《ちょっとした選択が少しだけ世界を変えることがある》
会場の「HYM」は、一つのフロアに複数の飲食店が並ぶフードコートのような空間です。その一角、普段は様々なグッズを販売しているスペースを中崎が改変しました。出現したのは、アミューズメントパークのような空間です。観客は会場のあちこちに掲示された指示書にしたがって、木製の樋にカラフルなボールを滑らせたり、棚の上に載る豚の置物に向かってティッシュペーパーを投げたり。子供たちやカップルが思い思いに楽しんでいました。でも、この空間を中崎がゼロから作り上げたわけではありません。実は、豚やアヒルの置物はもともと天井からぶら下がっていたものだし、樋を支える木箱や椅子は販売用の商品でした。そう、中崎が「ちょっとした選択」で創り出した空間で、観客も自らの選択で展示を変えていく体験を楽しんだのでした。(西岡一正)

 

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二藤建人《誰かの重さを踏みしめる》
三鷹駅北口を出て左、スクールバスのバス停近くに突如、とんでもなく目を引く2つの装置が現れました。二藤建人による来場者参加型作品「誰かの重さを踏みしめる」のための装置です。
これらの装置はそれぞれ、自分が日ごろ足の裏で感じている自身の体重をゼロにし、「自分のものではない別の人間の体重」を実感できる仕組みになっています。
他人の体重になってみることによって、他人の重さの「質感」が自分のものと異なることを知ることができました。違和感を覚えると同時に、その人が普段何を感じているのかな、どんな違いがあるのかなと考えたりもしました。相手の立場に立ってみるという行動に対しての新たなアプローチ方法が生まれたのでした。(小川真由子)

 

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村上慧《看板図書館》
人々が騒々しく行き交う三鷹駅南口デッキ広場。その一角にはコタツと本棚が。本棚に並ぶ本の表紙は、どうやら近くにある「お店の広告」らしい。店主・村上慧の笑顔が弾けている。ためらいがちに手に取ると、本の中身は絵本あり、小説あり……。勇気ある人はコタツでお茶をいただきながら、しばし本の世界へ。人々が、怪訝そうに、不思議そうに、あるいは面白そうにチラッと目を向けて通り過ぎていく。本を閉じるとまた目に入る「お店の広告」。ん? 広告⇔本⇔コタツの読者⇔通りすがりの人たち。ふふっ。どこから見てもなんだか生活のにおいが漂ってくる。ん? ここは「村上さんの家」の中? 好きだなぁ~、こういうの。こういう時間。(都賀田一馬)

 

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山城知佳子 (パフォーマンス出演:ShOh、Miya)
《ヒューマンビートボックス・War》

爆音をとどろかせるヘリコプター、爆弾の風切り音、巨大な爆発、入り乱れる銃撃、また爆発、延々と続く音の洪水……。ここは東京・三鷹駅近くの商店街にある一室。やがて爆撃と銃撃のなかからリズムが生まれビートが刻まれる。轟音の正体はヒューマンビートボックス。ビートボクサーSh0hとMiyaによる人間の喉と口腔から放たれる音だ。山城知佳子は、「あいちトリエンナーレ2016」で発表した映像作品『土の人』で使ったヒューマンビートボックスを前面に立てて、映像とコラボレートさせた新作ライブパフォーマンスを行った。会場の壁面には、太平洋戦争末期・沖縄戦のフィルムと、ライブにきた客の生の映像が映しだされる。東京にいながら激しい爆撃と銃撃にさらされた客たちは、否応なく戦争の圧倒的暴力を恐怖することになる。
このライブのわずか2ヵ月後、沖縄では米軍のヘリ不時着事故が相次いでいる。そういえばあの会場には、南の島の土の匂いとともに、硝煙の匂いも漂っていたような気がする。(岩尾庄一郎)

 

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山本篤《REMAKE》
何故か。その問いが産まれる事を、その問いの答えが分からない事を、僕たちは芸術と呼んでいる。山本の作品は、芸術を産んでばかりだ。
TERATOTERA 祭りの開幕前、告知用に書いた山本の作品の紹介文を、私はこう締め括った。その時点では「何故か」の意味はいまひとつわかっていなかった。山本が実際に行ったパフォーマンスは、大型の黒板にピカソの『ゲルニカ』を模写する、というもの。黒板の正面には何故かピッチングマシーンが置かれている。模写すべき『ゲルニカ』のコピーは部屋の入口に貼られているのだが、山本は何故か目隠しをしている。観客から描くべき位置の指示を受けて、山本は文字通り暗中模索で模写しようとする。と、突然、ピッチングマシーンが高速のボールを打ち込む。ボールは黒板の中心に当たるよう設定されているのだが、その轟音で山本は描くべき位置を見失ってしまう……。
不条理ともいうべきパフォーマンスを目した観客は、五感で考えたのではないだろうか。山本が企んだ何故かを。(荒田靖仁)

 

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和田昌宏《過去を忘れた明日の物語、もしくは明日をなくした過去の物語》
和田昌宏の展示会場は武蔵野芸能劇場の小ホール。大量の布を入れ違いに吊るしてその隙間の空間で2つの映像作品を上映しました。1つは、「MAKE AMERICA GREAT AGAIN」と書かれた赤いキャップを被った和田の妻が、足蹴り車で遊ぶ息子を無表情で見つめながらラジコンのコントローラーを操作し続けるもの。もう1 つは、視聴者に向けて催眠術を試みる男の様子で、「君が代」の音声と日本国旗の画像で締めくくられるものです。40歳を超えた和田は、年々記憶が曖昧になる自身への不安からこの作品の着想を得たと言います。いくつもの布が層をなす、幻想的で迷路のような空間は人々の脳内の隠喩でしょうか。布をかいくぐって歩く鑑賞者の姿は、先行きのみえない不透明な社会を彷徨う人々の姿を感じさせました。(遠山尚江)

開催概要

日時: 2017年11月10日(金)、11日(土)、12日(日)11:00~19:00
会場: 三鷹駅周辺施設、空店舗など10 カ所
アート展示:有賀慎吾、うらあやか、江上賢一郎×Micheal Leung、off-Nibroll、中崎透、二藤建人、村上慧、山城知佳子、山本篤、和田昌宏
ライブパフォーマンス: 切腹ピストルズ

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