田中義樹 《ホストクラブuwatoko 君の瞳をインボルブ》
田中義樹の「ホストクラブuwatoko 君の瞳をインボルブ」は、三鷹駅北口近くにある「レストラン喫茶 上床」を舞台に展開されたホストクラブ型のインスタレーションです。「ホスト狂いのごとくアート狂いになるほどアートを好きになってもらうクラブ」を目指し、若き芸術家たちがホストとなって来場者に芸術の魅力を伝える本気トークを展開しました。その熱意を支えたのは「みんながアートを好きになれば、世界は平和になる」という田中の哲学。バブリーなBGM と真っ赤な照明に彩られた店内で、時に自身の作品を自ら説明し、時に質問に答え、楽しく真剣にディープな芸術談義を繰り広げました。(梅澤光由)
東野哲史 《たきを(実家)》
廃屋で釣り堀を営む華奢な男「たきを」。東野哲史が扮する男店主は、客を心いっぱいの「おもてなし」で迎えます。釣れそうにないフナの稚魚と格闘する客に通信講座の受講を勧め、期限切れのポイントカードをプレゼントし、どこかで見たことのある名言を書にし、客の頭にキャベツを被せる。店を後にする客がいれば、ラジカセを肩に担ぎ、ボイスミュージックを大音量で流しながら次の行き先まで案内する。そのどれもが全く生産的でない行為が、多くの客は彼との時間を楽しみ、戸惑いつつも笑顔で去っていきます。いつの間にか「たきを」は祭りの人気者となり、肩に乗せた大きなラジカセでその細い足腰を軋ませながら、客と一緒にまちを闊歩していました。(遠山尚江)
永畑智大 《それいけ デ・クンニくん》
普段「価値観の違う他者」とはあまり接しないようにしているという永畑智大が、ついにこの日がきたかと考えた作品でした。
多くの人が行き交う三鷹駅南口のデッキ広場に設けた「スピリチャル似顔絵会場」。そこには、緑色の髪の毛をした顔だけの巨大張り子の着ぐるみを着て、工事現場用の黄色いヘルメットにサングラスという、怪しい出で立ちの画家が待機します。周囲では、蛍光色の帽子とブルゾンを着たボランティアがポケットティッシュを配る。ティッシュの裏には、作家が描いたマンガのチラシが入っています。
そのテーマは「価値観の違う他者と生きる術」。
会場では、不安げな客を前にした永畑が、柄が腕ほどの長さの筆でさらさらと似顔絵を描き上げていきます。緑、黄、赤、青の色で出来たスピリチャル似顔絵は、意外にも心なごむ仕上がりでした。(神山綾子)
遠藤一郎 《カッパ族》
三鷹駅北口を出て左に曲がると、ベンチが3つ程並んだ小さな公園があります。そこに遠藤一郎が扮する「カッパ師匠」が仲間を連れてやってきました。
カッパたちはその広場にブルーシートを張って、お茶をしたり、お話したり、たまに人間に声をかけたりと、自由に振る舞います。それに対して人々の反応は様々で、遠くから写真を撮っていく人、笑っている人、無視する人、近所だから気になってと声をかけてくる人、一緒にお茶する人、子供のころカッパを見た事ある(!)と話しかけてきた人、訝しげに遠巻きに見ている人などなど。
こんなにも多くの反応があったということは、人々は普段の人間と人間との関係ではないコミュニケーションをとっていたのだと思います。カッパたちの振る舞いも、人々と関わるたびにどんどん変わっていきました。カッパたちも人間たちも何かが変化したことを感じているはずです。「何かが変わる」という曖昧だけどなぜか憧れてしまうこの言葉は、もしかしたらカッパの力で現実になるかも!?(福家由美子)
うらあやか 《ビーズのネックレスがほどけて》
「伝言ゲーム」。この言葉を聞いて、どんな風景を思い描くだろう?幼いころ、誰かの耳元でささやくことにわくわくした気持ちか。もしくは無邪気に遊んだあくる日の夕暮れか。
うらあやかの作品は、形としては伝言ゲームでした。でもそれは短い文章を一文字ずつに分解して伝えていくもの。しかも次の人に伝えたら休む間もなく次の言葉がくる。次々に与えられた言葉をつないで一つの文章として理解することは不可能で、まるで言葉が私たちの間を通り過ぎていくかのよう。その経験は、どこか別世界に飛ばされたような、とてもポエティックなものでした。少しつついたら壊れてしまいそうなあの繊細な時間は、いつまでも瑞々しく私たちの記憶の中に残るのでしょう。(阿部葉子)
橋下聡 《転がる石、オリンピック、太陽、月、冷たい水》
アメリカ大統領選を1 ヵ月後に控えた10 月初旬。橋本聡の展示では、大統領候補者として争っていたトランプ候補とクリントン候補の写真が大量に平積みされていました。ポスターは持ち帰り自由で、その数ではクリントン氏が優勢でしたが、結果はご存知のとおりです。会場となった空き店舗の空間は、緊張感と不安感を煽る蛍光色の赤で覆い尽くされ、4 年に一度、同年に行われるオリンピックとアメリカ大統領選を軸に、会場の2つの時計は同じ時刻を刻みます。しかしながらこの2 つの時刻は、東京とその地球の真裏にある時差12 時間のリオの2 つの時刻でもあります。スポーツと政治、宗教とネーション、非暴力と暴力、歴史と時間。そんな言葉が観客の脳裏に去来する中で、思考の交差を拒むかのごとく、静かな空間を切り裂く石の鈍い音が響き渡ります。作家自身やボランティアスタッフが無表情に石を蹴り続けているのです。その一方で、会場には「この水を飲めます」「振り回せ」「自身に塗れ」などの指示書が、氷水の入ったコップ、角材、スプレーの前にそれぞれ貼られています。
ときに暴力的な内容も含む指示書に、多くの観客は困惑し、観賞という枠組みから脱せないでいる中、自身の境界を踏み超えた動きを見せる観客も。蹴られた石は足元をかすめ、だれが観客で何がパフォーマンスか手探りに、緊張感や不安定さはその空間に満ちていきます。(橋口聡美)
利部志穂 《コねコ、ネコになりたいけど、居ぬ。》
雑居ビルのワンフロアを使った利部志穂の展示は、ボールが吊り下げられ、鏡や木材など様々なモノが配置された空間。ネコの遊び場のようにも見えますが、そこで「遊ぶ」のは観客。低く張られたテグスに引っかからないよう身をかがめながら、床に敷かれた人工芝を思い思いの形にハサミで切り取っていきます。
ここはあらゆるモノとのコミュニケーションの場。現代ではSNSで簡単に人と繋がれるように見えても、全ての他者と関わることは決してできません。しかし一方で、人間には動物やモノを含むあらゆる対象とコミュニケーションする力が備わっていると考える作家は、言語によらない原初的な関わり方へと私たちを誘います。
「私はどこに立ってるの?あなたはどこにいますか?もっと強く発信してください。こちらはそれを反射します。」
開け放たれた窓から見える建物の屋上には光を反射する仕掛けが施され、モールス信号のようにきらめきます。注意深く目を凝らせば、誰かからのメッセージはいつでも届いているのかもしれません。(小西佐和)
淺井裕介 《生きとし生けるものへ》
三鷹駅北口広場に立つ、駅舎を超えるほどの椎の大木。その懐に抱かれて淺井裕介の泥絵制作は始まりました。泥絵は足元の土と水とを絵具にして描かれ、三鷹の地中深くに染み込んでいる過去を現代に呼び戻す。作家の指先からいきものや精霊が次々と現れ巨大なキャンバスは時空をつなぐ窓となりました。
作家の希望に応えて観客が押した泥の手形は鳥となり狼となり命を宿し、ドングリの実は土の兄弟たちを歓迎して軽やかな音を立て降り注ぐ。刻々とにぎわいを増す作品の前で立ち止まる人、見入る人、小さくため息を漏らす人。日常の中に突如現れた泥からの便りに頷きながらそれぞれの暮らしの中に帰っていきます。
泥絵は時を経て土に還り、ここで得た記憶を身にまとい眠ります。作家が再びこの場所に立つ日を想いながら。(前川順子)
河口遥 《“最後に私になぞなぞ出してね!あと、あなたの考えた星の名前をつけてね!”》
廃屋の一室を会場とした河口遥の作品では、来場者が「宇宙人」の質問に答えます。でも、それはちょっとした会話にすぎません。問題は会場を出てからで、宇宙人に漏らされた個人情報をもとに後から来た来場者に探され、見つかった暁には名前を付けられます。他人に名前を付けられるということは、他者に他者性を押しつけられるようなものかもしれません。しかし自分もまた同じように前の来場者を探し名前を付ける立場なのです。このちょっと暴力的な連鎖がなぞなぞと風船というファンシーアイテムに包まれて広がりました。
自身の名前で作品を発表する作家に対して、鑑賞者やボランティアは常に匿名です。これはそうしたアートの匿名性を崩す試みでもあり、鑑賞者が標的となり名前を与えられました。(榎戸杏子)
ハンバーグ隊 《石》
雑居ビル内にある洋品店向かいのフリースペース。ここに現実と地続きであるかのような異空間が出現しました。
入口では、イベント会場のように缶バッジ等のグッズを売り、薄暗い奥の空間には、壁一面に奈良の石舞台とスマホの画面が並べて投影されています。そこには青い衣裳に身を包んだヒロイン「ナウ鹿(ナウシカ)」がいて、何やら観客に話しかけてきます。不確かなコミュニケーションの後、彼女はゴム手袋をはめ、観客が選んだ服を青い液体に浸し、おもむろに立ち上がったかと思うと石舞台に向けて力いっぱいに投げつけます。壮大な物語の一場面に立ち会っているかのような厳かな雰囲気の中、投影されたスマホ画面を見ると、ここでは、ヒロインにエールを送り、時に観客を餌食に盛り上がるLINE 特有のノリの会話がリアルタイムに続けられています。これらを他人事のように覗き込んでいると、突如ナウ鹿が染めたばかりの蒼き衣を手に現世的な要求をつきつけてきます。観客は不意を突かれ、混乱の内に選択を迫られる当事者とさせられるのです。(千葉佐奈子)
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