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「人と人、街と街とをアートでつなぐ」 中央線沿線地域で展開するアートプロジェクト

暮らすアート

シンポジウム/トーク

夏の暑気が残る金曜日の夜、武蔵境のカフェ「コリウス武蔵境」で暮らしの中にあるアートや表現について語り合うトークイベント「暮らすアート」が開催されました。
ゲストは、ホームレス生活をしながら表現活動を行うアーティストいちむらみさこさん、障害者支援を行う社会福祉法人が運営する「みずのき美術館」(京都府亀岡市)を拠点に様々な活動を行うキュレーター奥山理子さん、そして、アーティストの作品をワンピースとタイツに落とし込むブランドを展開するデザイナー米田年範さんの3人。
分野の垣根を越え、それぞれが考えるアートから紐解かれる話題は、暮らしから2020 年の東京オリンピックまで広範囲に及びました。そこから見えて来たものは、社会で見えづらい、あるいは見えない存在とされてしまいそうな人々をそれぞれの立場から紹介し、広く伝えていくゲストの皆さんの姿でした。(山上祐介)

 

/////以下、トーク内容の抜粋////////////////////

ーーー アートは本来、私たちの暮らし、その向こうにある社会に密接に関わっているものです。本日のパネリストの皆さんは、異なる分野で活躍されていますが、暮らしや社会にアートを取り込んでいくという点では共通していらっしゃいます。まず、それぞれのご活動について自己紹介をお願いいたします。

「アール・ブリュット」を地域に開く

■奥山:私は京都にある「みずのき美術館」のキュレーターと、東京都が進めているアートプロジェクトのコーディネーターを務めています。
みずのき美術館は、2012 年に京都の亀岡市にできた、床屋さんをリノベーションしたギャラリーです。この美術館はアール・ブリュットの活動を支援する事業の一環で2012 年に開館をしました。母体となったのは、知的障害の成人の方たちが暮らす入所施設です。私の母が施設長を務めているので、私は幼少期から遊び場のようにして、70 名ほどの入所者と休日を共にしていました。
この施設では1960 年代に、日本画家を指導者として絵画による余暇活動を開始しました。70 年代後半から本格的な絵画指導に切り替えて、公募展などで入賞が相次ぎました。それが90 年代に国内外の美術関係者から注目を浴び、今のアール・ブリュットの草分け的存在として「みずのき」の絵画作品は紹介されてきました。その経緯を経て、芸術的を地域資源として発信していこうと美術館をオープンしました。「みずのき」で暮らす人たちの日常が私のそばにあることが、企画の原動力になっています。「生きること」、「関係性」、そして「幸せについて考える」、という3 つのミッションを持って美術館運営をしています。
また、アーツカウンシル東京が東京都とともに昨年度から始めた「TURN」というアートプロジェクトにも関わっています。こちらは、東京2020 オリンピック・パラリンピックの文化プログラムを先導する東京都のリーディングプロジェクトとして2015 年に始動しました。異なる背景を持った人たちとの出会い方、つながり方に創造性を携え、働きかけるプロジェクトとして展開しています。プロジェクトの現場となる、福祉施設やフリースクールなどへのコンタクトや伴走役として携わっています。

アートをファッションに落とし込む

■米田:僕は「ワンピースとタイツ」という、アーティストやデザイナーの作品を衣服に落とし込んで、作品と生活を密接にするというコンセプトのブランドを展開しています。美術大学を卒業してから洋服の学校に行って、ファッションデザイナーを目指していて、ある時、女性アーティストの友人とタイツを作ってみました。そしたら、彼女にとっては自分の作品をそのまま着られることが良かったというので、ブランドとしてやってみることになりました。
ファッションブランドではありますが、主体はアーティストで、僕はブランドの枠組みを作っています。ファッションアイテムなので消費されるというデメリットもあるんですけど、同時にあまり知られていないアーティストでもファッションという切り口で広まっていくと考え方もできると思っています。うちのブランドはSNS で有名になった時期がありました。そのきっかけは、愛☆まどんなさんという美術家の作品をプリントしたことです。アイドルの「でんぱ組.inc」が着てくれたり、美術家の会田誠さんがいつの間にかモデルをやってくれたり。こういう自然な広がりがよくあるのが特徴かなと思っています。

様々なマイノリティーの痛みを伝える

■いちむら:私は、東京の真ん中にある公園のテント村に2003 年から住んでいます。テント村の人たちは街で拾ってきたものや不要になったものを集めて、それを交換して暮らしているので、そのシステムを使って、お金ではなく物でお茶が飲める「物々交換カフェ」をやっています。そこで毎週絵を描く会を開いていて、その作品を展示する「エノアールカフェ」を毎週末にやっています。
野宿となると、女性やセクシャルマイノリティーの方々には住みにくい、あるいは居にくい。私自身も住みにくいことがあったので、女性たちが公共の場所で安心して過ごせるようにおしゃべりをしながら情報交換する集まりをやっています。その中から、生理用の布ナプキンを作って販売する「ノラ」というブランドを始めました。女性への性暴力や排除、襲撃などについて発信するためです。布ナプキンは最終的に血まみれになります。「私たちは公共空間で血まみれなんだ」ということをイメージしながら人形や鳥の形をした布ナプキンを作る。この布ナプキンを使用する人たちが密室で血に染め、形にすることで、わたしたちの痛みを同じような立場の女性たちに届けてつながっていこうと思っています。
先ほどオリンピックの話が出ましたが、新国立競技場の建設が始まっています。その敷地にかかるため、明治公園という都立公園にいた野宿の人たちが排除されようとしています。私は野宿の人たちとともに、フェンスに抵抗の記録写真や文書を貼るなどの活動をしてきました。結局、強制排除が起こったのですが、異様な光景だったので映像を撮り、「排除の祭典」という作品を作りました。また、その近くの霞ケ丘アパートという都営団地でも大きな排除が行われました。独り暮らしの高齢の方が多いのですが、住み続ける選択肢はないまま追い出されている状況です。

ーーー いちむらさんと奥山さんの活動は、東京オリンピックとも結びついていますが、アートとオリンピックは微妙な関係になっていますね。

■奥山:オリンピックは巨大なイベントなので、一個人として言えるところは少ないと思うんです。ただ、(オリンピックに関連するアートプロジェクトのために)東京に来ている自分を支えているのは、やはり「みずのき」の人たちが隣りにいる、という感覚です。私が社会にアクセスするプロセスは、社会の中ではとても知られにくい(入所)施設という場所で人生を終えようとしている知的障害の人たちの存在と共にある、と考えています。

■いちむら:差別された立場の人たちは、何を表現するにもリスクがあります。そこで、閉ざされた環境で絵を描くと自分の思いが解放されていくかもしれません。わたしは差別や襲撃の痛みをないことにせず、自分たちの表現の豊かさを解放していきたい。でも、オリンピックもそうなんですけれども、わたしたちのような立場の人たちを排除をするシステムに対しては、批判的な表現を通してでしかその表現が可能になりません。「みずのき」はオリンピックと無批判につながらない方がいいと私は思います(笑)。
■奥山:「みずのき」がオリンピックにつながった経緯について説明しますね。そもそもアール・ブリュットは、作品そのものだけでなく、表現として生まれ出る瞬間、その周縁にある様々な人や物事との関係性が実はとても面白い。そこへの気づきがアール・ブリュットの魅力になっていると思うんです。そこで、障害の重い人とともにアートを楽しむことを目指して、アール・ブリュット美術館4 館合同の企画展「TURN /陸から海へ(ひとがはじめからもっている力)」が2014 年に始まりました。監修に美術家・日比野克彦さんを迎えて、施設でのショートステイを体験していただいたんで
す。一方で、東京オリンピック・パラリンピックを日本社会で多様性を考える契機にしようという国の意思がある。そこから「TURN」が評価されて、2020 年に向けた文化プログラムのモデル事業になりました。そのアンビバレントな状況を私自身が今、体験しています。

ーーー アートを通して日本を発信するという点では、米田さんもつながる部分があるのではないでしょうか。また、アーティストの表現を押し出していこうとされていますが、それが消費されていくことについて、どんな思いですか。

■米田:先ほど紹介した愛☆まどんなさんのタイツやワンピースをアイドルが着用してくれたりして、ブランドの知名度は上がったんですけど、僕がやりたいのは、枠組みを作っていろいろなアーティストの間口を広げていくことです。日本のポップカルチャーをメインに押そうという気持ちはないんですが、その辺が目立つアイテムになって、結果的にはプラスにもなっています。東京都の若手ブランド支援を昨年(2015 年)まで受けていて、その括りで「Japan Expo」という、日本のサブカルチャーを紹介するパリのイベントにも招待されました。それを利用して別のジャンルのアーティストも引き上げていけたらなあ、という気持ちでやっています。そのためには消費というルートに乗ることも悪くはないなあと思います。

 

アートとオリンピックの関係を探る

ーーー いちむらさんは自身の表現活動の中で、消費に対しても違う見方もあるだろうと考えていらっしゃると思うのですが……。

■いちむら:私は消費というか、経済システムについては常に考えています。テント村では、住人たちが物を分け合いながら生活しています。お金にあまり関わらないシステムの中で網目のような関係が出来上がって、物がコミュニケーションツールとして回る。この独特のネットワークが豊かな人ほど必要な情報や物が入ってくるんですね。そうすると、資本主義経済の中でそもそも排除されている人が生きていくためには、独自のネットワーク作りやそれを守ることが重要だ、と価値観が変わってきます。
渋谷区の宮下公園で公園のプライバタイゼーションに反対してアーティスト・イン・レジデンスを行いました。アーティストを自称する人はほとんどいなかったですが、自分がいることで様々な社会的な応答や影響を与えるという経験をそれぞれが持ちました。公園で何が排除されて何が優先されているかそのコンフリクトから何かが生まれていくという体感をし、そこから創造は可能になります。オリンピックやメガシステムの構造的暴力に目を閉ざしたまま、夢や希望を見出すようなアートやアートプロジェクトは、そのままその暴力に加担することとなります。そのようなアートプロジェクトはとても恐ろしく、特に社会的に弱い立場に置かれている人たちの暮らしを壊すことになっています。

ーーー 公園と「みずのき」という違いはありますが、奥山さんもアーティストって何だろうとか問い、異なる価値観を橋渡しされていると思います。

■奥山:それは日々の仕事の中で重要なテーマになっています。いわゆるアール・ブリュットの作品を生み出している人自身にはアーティストとしての自覚がないことがほとんどです。そういう人の作品を世に出し、アーティストだと言っていくことに対して、彼らの日常にふれている家族や施設の職員には葛藤があります。そこはまだ答えは見出せていない状況です。私自身はみずのきの人たちのことをアーティストとは言っていません。「みずのき」の作品をアール・ブリュットとして伝えることも今はしていません。私は、日比野克彦さんがおじいちゃんおばあちゃんと朝顔のタネを蒔いて育てることをアートだと捉えたということに、とても豊かなものを感じました。タネを蒔くことをアートとしたように、暮らしの中におこる関係性をアートと呼べるのであれば、社会の課題を、両者の間に生まれる関係性の中でほぐしていくことができるんじゃないか。だから、地縁とか血縁にとらわれない関係性の作り方としてアート、アートプロジェクトに期待をしています。この考え方をオリンピックを契機に一般化できるとしたら、そこに夢を見出していきたいという思いが、私が東京でプロジェクトに関わるきっかけになっています。

ーーー アートや表現を、地域をこえて遠い人に届けるという意味では、アートをファッションで発信している米田さんが一番フットワークが軽いのでは、と思います。

■米田:僕自身はお二人とは全然スタンスが違うなと感じています。「ワンピースとタイツ」を始めた動機は、やっぱりファッションデザイナーとして自分が携わったものを使ってもらえると嬉しい、ということです。アーティストも少しでも広がる可能性を感じたから、関わってくれたのだと思います。一人で何かを発信するという力がないので、僕は枠組みを作ろうとしています。昨年は札幌のアートフェアに呼んでいただき、今年は大阪のアートフェアにも参加しました。近く高松に店を出すんですが、2 階をギャラリーにできそうなので、もう少しアートに焦点をあてた活動、発信ができるかなと思っています。

ーーー トークセッションを通して、いろいろなところにアートが作用していることがわかりました。オリンピックという巨大イベントにもアートは関わっています。それに対していろいろな立場がありますが、こういったコミュニケーションを重ねること自体がとても大切だと思います。

開催概要

日時: 2016年8月26日(金)19:30 ~21:30
会場: flower cafe コリウス武蔵境(東京都武蔵野市境1-17-6-106)
ゲスト: いちむらみさこ、奥山理子、米田年範

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