teratotera

「人と人、街と街とをアートでつなぐ」 中央線沿線地域で展開するアートプロジェクト

TERATOTERA祭り2018 Walls −わたしたちを隔てるもの− PERFORMANCE

パフォーマンス

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遠藤麻衣 《コンテンポラリーへびんぽじゃじゃりの引退》
会場は飲食店数店が連なったフードコートに隣り合う。調理の音や食事を楽しむ人たちの声が、仕切りのない会場にも聞こえてくる。
そのにぎわいのなかに、鳥の鳴き声が響く。ダンサー神村惠が黒衣姿で登場。蛇のメークを施した右腕が動き出す。会場に緊張感が広がる。テーブル、そして床へと、ゆっくりとした気品さえ感じさせる動きで蛇が這っていくと、会場に森の情景が浮かび上がる。口を大きく開けて卵を飲み込む蛇は、野生の強さを感じさせる。しかし、その蛇も何者かに捕まり殺されてしまう。
神村と入れ替わるように、俳優・美術家の遠藤麻衣が登場する。現代の若い女性らしい装いだが、その言葉遣いは時代錯誤的に古風で、語りの脈絡もたどりにくい。さらに場面が変わると、遠藤が演じる女性はアイドルとして舞台に立っている。照明に白く輝く左腕は、神村が演じる蛇と化し、蛇がアイドルに憑依したかのようだ。アイドルグループ風の楽曲が流れると、二人は息のあったダンスを繰り広げる。♫ヘビーユーザー、ヘビーユーザーというリフレインがいつまでも耳に残る。
女性と蛇というモチーフは、「松浦佐用姫」や「道成寺」などの異類変身譚を思わせる。それらの物語のなかでは、蛇は転生を繰り返して、家族や恋人たちを引き裂く存在として現れる。遠藤版「蛇物語」ともいうべき今回の作品は、「転生」を現代的な女性を象徴するアイドルの「引退」に重ね合わせる。蛇の無言劇から、女性の独り語り、そしてアイドルショーへと、転変する場面を追いながら、現代における親密な関係の「裂け目」へと思いを馳せた。 (佐藤卓也)

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砂連尾理 《妊婦さんと踊る》
ダンサー・振付家の砂連尾理は、今回の「TERATOTERA祭り」のコンセプト「Walls」を受けて、ダンスとワークショップを組み合わせたパフォーマンスを構想した。同じ時期に、ある助産院からワークショップのオファーがあり、その偶然のつながりから妊婦と胎児の間にある「お腹の壁」に焦点を当てた。
『妊婦さんと踊る』と題したパフォーマンスは、タワーマンション前の広場を会場に、砂連尾とアートコーディネーターで妊娠7 ヵ月の古原彩乃との共演で始まった。砂連尾が古原のお腹に触れて、胎動を感じ、踊り出す。お腹という壁を越えて、胎児がその姿を観客の前に現したかのような踊り。それに返歌をするように古原が、妊婦の日々の思いをラップで歌い始める。
――優生思想、そういうの自分は全く遠いと思ってた。そんな考え嫌だと思ってた。けど妊婦の私、母親の私、今すごく身近にそれがある。(中略)でも健康を願うこと、幸せを願うこと、それは悪いことじゃないし。なんかモヤモヤするんですよね……。
観客には妊娠・出産を身近に感じる世代の女性が目立つ。妊婦の揺れる思いを表現したライムに、ときに笑いをもらしつつ、妊娠・出産にかかわる政治社会的な言説にも思いを巡らせる。
『妊婦の叫び』と題したラップを古原は――大好きな人と子供を授かるそれはやっぱり幸せだなって思う。会えるのが楽しみ。と締めくくり、大きな拍手を浴びた。
砂連尾にワークショップを依頼したのは、立川市にある「まんまる助産院」。産前産後ケアとともに分娩介助を行う希少な助産院という。院長の椎野まりこが登場し、「妊婦は生む力を持っている。そのスイッチを入れるために、脳と体をつなげるよう空想する力」を砂連尾のワークショップに期待した、と語った。それに続けて、30年におよぶ助産婦としての経験に基づく、圧巻の「擬似出産パフォーマンス」を披露。その感想を観客から募って、音楽家・片岡祐介が即興で作曲し、観客とともに楽しく合唱する和やかな一幕も。
約50分のパフォーマンスを締めくくったのは、古原と、公募に応じたもう一人の妊婦。二人の胎動を手で感じ取った砂連尾は、腕をゆっくりと上下になびかせながら後ろ向きに遠ざかっていく。その歩みが妊婦のお腹の空間を広げ、観客をも包み込む。二人の妊婦は、お腹を覆う布の下に寄り添ったそれぞれの夫ととともにゆるやかに踊り始める――。
晩秋の寒空の下、観客はお腹の壁を超えて胎児とともにある幸福感に包まれた。 (森ゆうな)

開催概要

[日程] 平成30年11月16日(金)、17日(土)、18日(日) 11:00~18:00 ※スペースエルベは18:30 まで
[会場]HYM、武蔵野タワーズ スカイゲートタワー前広場
[参加アーティスト] 遠藤麻衣、砂連尾理

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