teratotera

「人と人、街と街とをアートでつなぐ」 中央線沿線地域で展開するアートプロジェクト

コレクティブ フォーラム vol.2
ーサスティナビリティの獲得ー

シンポジウム/トーク

/////以下、トーク内容の抜粋////////////////////

シェアしともに過ごす アジアの経験に学ぶ

■小川: 「COLLECTIVE FORUM」は、現代アートや演劇、ダンスなどの世界で昨今、よく聞かれるようになった「コレクティブ」という動きについて語り合う場で、昨年(2019年)5月に続いて、2回目の開催になります。今日は国内のコレクティブに加えて、インドネシアのコレクティブ「Gudskul(グッドスクール)」からゲストを招いて、サスティナビリティ(持続可能性)をどう獲得するかについて話したいと思います。

フラットな関係から生まれるダンス

■羊屋: 札幌に「コンカリーニョ」という劇場があります。プライベートな劇場で、演劇などとともにコンテンポラリーダンスもやっていたのですが、ダンスカンパニーが育たなかった。そこで私が2017年にゲストディレクターとして呼ばれました。振付家がいてダンサーがいる「カンパニー」ではなく、互いにフラットな関係で集まってダンスが発生したらいいなと考えて、「Sapporo Dance Collective(SDC)」という名前にしました。
SDCには、ダンサーたちのほかに、ダンスと観客をつなぐ「すきま」、そしてダンサーの環境を考える「HAUS」があります。「すきま」は制作とかマネージャーですが、担当者たちはふわりと「すきま」と言っています。HAUSは「北海道アーティスツ・ユニオン・スタディーズ」の略称で、ダンサーの生活や権利と労働環境に関する勉強会です。総勢で30~40人が出入りしています。

■櫻井(札幌からSkypeで参加): 僕はHAUSに参加して、アーティストが労働者として社会的な地位を確立していくにはどうすればいいかを研究しています。2017年にアーティストの働き方の現状と意識に関するアンケートを取りました。約60パーセントは兼業で活動していますが、30代を過ぎてやめてしまう人も多かったです。HAUS は2019年に立ち上がったのですが、1年目は労働者の権利の専門家を呼んで勉強会をしたり、ハローワークへ行って調べたりしました。直近ではパワーハラスメントのガイドライン作りなどを通じて、ダンスと生活と社会の問題について取り組んでいます。

■たこ: 「Ongoing Collective(オンゴーイングコレクティブ)」は、2016年に小川さんが、自身が主宰する「Art Center Ongoing」に集まる人たちに声がけをしたことから始まりました。展示では、「奥能登国際芸術祭2017」に参加したほかに、文章と映像を組み合わせる「ハイブリッド映像論」というイベントもやりました。全員参加ではなく、ゆるく活動しています。最近やっているのは「Ongoing School」。挙手制で、やりたいアーティストが講師になる「学校」です。
参加してきた子供たちが興味を持っていることを、講師のアーティストが一緒にやって「ともに学ぶ」というメリットがあります。

■うら: 今はメンバー50人くらいですが、お互いを知らなさ過ぎるという問題が見えてきて、1カ月に1回、3人ずつ自己紹介をするという機会を設けて、YouTubeで公開しています。また、日記を書いてホームページで公開しています。
「Ongoing School」で私が考えているのは、子供が最初に受けるジェンダーについてのクラスです。大人の言葉で考えるジェンダーと、子供が考える身体とかジェンダーは違うので、もっといい言葉で考えるクラスにしたい。

コレクティブが「ドクメンタ」監督に

■ Barto: 私はグッドスクールとは別に、「Ruangrupa(ルアンルパ)」というコレクティブにも参加しています。2022年の国際展「ドクメンタ」のディレクターに選ばれたので、ご存知の方もいるかしれません。
インドネシアでなぜコレクティブの活動が始まったかを振り返ってみます。まず、コレクティヴィズムという考え方があって、一緒に料理をしたり、ローカルなコミュニティで一緒に過ごすことを大切にしています。また、政治的な理由もあります。1990年代の抑圧的な政治状況の中で、クリエイティブな活動をする人たちと集まるのが難しくなったからです。コレクティブは固定した形で長期にわたって活動するとか、同じ場所を拠点にし続けることはほとんどなく、政治や文化の状況によって常にさまざまに変化しています。

■MG: 私も「Serrum(セラム)」という別のコレクティブに参加しています。コレクティブのメンバーはほぼ一緒に生活しているのですが、そうすることで各個人がいろいろな「ウィルス」を持ち込んでいて、その「ウィルス」が変化し続けています。
Bartoが参加しているルアンルパは2000年にできています。私は2006年からルアンルパとの関係が始まり、ジャカルタ州立大学で美術教育を学んでいた仲間とセラムを作りました。活動プログラムや展覧会のやり方などはルアンルパから教えてもらいましたが、運営方法は異なります。セラムは展覧会の設営などを請け負うなどしてセルフファンディングしています。2010年になると、ルアンルパが逆にセラムから運営方法を学ぶことになりました。
そして2016年には、ルアンルパとセラムは他のコレクティブとともに大きな倉庫に移転しました。アートの「エコシステム」をどのように作るかを考えた結果です。グラフィックデザイナーやアーティスト、写真家などさまざまなクリエイターも集まりました。
2018年にはもう少し小さいスペースに移転しました。そこでの新たな課題は、それまでの経験を通して得たものをどのようにして持続させていくか、でした。そこでアイデアやノウハウ、資金をすべて共有するというモデルを生み出しました。共有する機能を「コレクティブ・ポッド」と呼んでいて、必要に応じて誰でもアクセスして使用することができます。
また、「コレクティブであること自体が知識を生み出し伝えていくシステム、つまり『学校』なのだ」という認識から、一緒にエコシステムを築いてきた3つのコレクティブがグッドスクールとなりました。グッドスクールには1年間のコースがあり、学際的なアプローチで、コレクティブという文化の歴史、その活動の意義、美意識と倫理の問題といった広範なテーマをみんなで議論しながら学んでいます。専門家から学んで得た知識を再分配していくことがサスティナビリティだと考えています。

とりあえず始める いつでも変えられる

■服部: それぞれに特徴のある活動をしていますね。どのコレクティブも緩さというか、とりあえず始める、いつでも変えられるという姿勢が共通していると思いました。とはいえ、違いもあるはずなので、まずはグッドスクールのお二人に質問をします。ルアンルパはもう20年、コレクティブを続けています。戦略もあるし、形もできています。でも、あえて「インスティチューション(組織・施設)」とは言わない。その理由は何ですか。

■Barto: 他のコレクティブとコラボレーションをしていくと、多くのことをシェアできて、知識も増えていくし、得るものが大きい。グッドスクールを始めると、場所もシェアしているし、リソースも分かち合っているので、ルアンルパというフィジカルな枠組みが消えていきました。オーガニックなコレクティブという形とインスティチューションとの間ぐらいにあるのではないか、という気がします。

■MG: 私は、グッドスクールがインスティチューションとしての枠組みを持っていると考えています。コレクティブとしての活動はそれぞれ別々に続けていますが、グッドスクールの枠組みのなかではシェアし合っている。同じ興味を持って一緒にやりたいというコレクティブなどにもオープンにしてコラボレーションをする、あるいは自分たちのリソースを使ってもらう。シェアをして相互的に関係を作っていくインスティチューション、といえるかもしれません。

■服部: 皆さんにお聞きしたいのですが、一番困っていることは何ですか。

■羊屋: この場ではコレクティブが普通に語られていますが、私が最初にコレクティブという言葉を発したときは、そんなに浸透していなかった。日本語訳をすぐ決めてしまうのも違うな、と思えるので、私自身はコレクティブという言葉を伝えるときに困っています。

■櫻井: 今年は公演という目的があるのですが、入場料をとって公演するのはコレクティブにとって結構しんどいことになるのではと感じています。

■うら: 小川さんの呼びかけで始まったので、サスティナビリティについて困っています。それぞれが既にやりたいことをやっているから、コレクティブとして何かやろうとしたときに、アイデアは出すけど、他の人がやるんだろうなという感じです。

■たこ: 全員が集まる機会が少ないことですね。もっと集まれればうまく関われるんじゃないかな。

■服部: ルアンルパは場所があって、ただそこにいるだけで自然に集まっていることになりますが、小川さんが参加している「オンゴーイングコレクティブ」は、一定の場所で集まって活動するというよりは、もっと個人的な感じがします。どういうモティベーションで、コレクティブになったのですか。

都市型コレクティブは可能なのか

■小川: 僕は2016年に東南アジア9カ国をリサーチしたんです。そのときにも多数のコレクティブを見てきて、「こんなやり方があるんだ」と、ものすごい衝撃を受けたんです。それで、日本に帰ってからコレクティブを始めたんです。東京では皆忙し過ぎるし、家賃も高いから、一緒にだらだら過ごすなんてできないんです。でも、都市型のコレクティブはできないか、という実験をしたかったんです。始めてみるとモティベーションを保ってサスティナビリティを獲得することが難しい。具体的に人が集まれる場所はなくても、何かをシェアするとか、教え合うということができないかな、と思っています。

■MG: コレクティブの定義は状況や抱えている問題によって変わってくると思っています。インドネシアの社会的な状況としては、抑圧的な政治や国の体制が大きな敵としてあった。アートの世界ではコマーシャルギャラリーや美術館が存在するが、若いアーティストがそこに呼ばれることはほとんどない。そこで、若いアーティストが自力で自分たちの場所を作ろうとしたのが、コレクティブとなった。「共通の敵」をどう設定するかによって、東京のコレクティブの形がわかるかもしれません。

■小川: 「共通の敵」はなんですかね。日本は個人が、アーティストであっても、どんどん孤立していく状況になっている。コマーシャルギャラリーに所属して作品が高い値段で売れるという成功への道筋があるとしても、それだけでは独りで戦い続けることになる。ひたすら孤独になって断絶が起きていくことに、どうにかして抗えないかと考えたときに、コレクティブがすごく輝いて見えたんです。

■服部: インドネシアのコレクティブを見ていて不思議だったのは、平日の昼間から集まってのんびりとだべったりして過ごしていて、コレクティブの活動が生計を立てる手段にはなっていないんだろうなということです。皆どうやって生きているんですか。

■Barto: コレクティブは厳しい現実から逃げる先のようなもので、実際にはメインの仕事があります。インドネシアで楽なのは、自分たちが何をしているかを明確に定義しなくていいことです。もともとは、若いアーティストが集まって、力を合わせようと活動を始めた。そうやっている中で、持続するためにリソースをシェアするという方法を自覚してきた、といえます。コレクティブをきちんと定義するのではなく、オーガニックな状態でゆったりとあることが長く続けていくコツ
なのかもしれません。

■小川: 「一番困っていること」は、僕にとってはサスティナビリティです。今日は、札幌やインドネシアから来ていただいて、いろんなヒントをいただきました。やはりシェアしていくことが継続にもつながると感じました。

開催概要

日程:2020年1月18日(土)15:00~17:00
会場:KOGANEI ART SPOTシャトー2F
登壇者:Gudskul(MG Pringgotono、Leonhard Bartolomeus (Barto))、Ongoing Collective(うらあやか、たこ)、Sapporo Dance Collective(羊屋白玉、櫻井ヒロ)、服部浩之(キュレーター/秋田公立美術大学大学院准教授)
モデレーター:小川希(TERATOTERAディレクター、Ongoing Collective、Teraccollective)
※本事業は「東京アートポイント計画」として実施しています。

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