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「人と人、街と街とをアートでつなぐ」 中央線沿線地域で展開するアートプロジェクト

西荻映像祭 ー不可分な労働と表現ー

展示

「西荻映像祭2017」では、新進気鋭のアーティスト7組が西荻窪駅周辺の店舗を舞台に映像作品を発表しました。今回のテーマは「不可分な労働と表現」。店主独自の審美眼によりセレクトされた商品やサービスから成る空間に着想を得て、作品が展開されました。独自の感性を貫きながら同じ時代を歩む店主やアーティストの姿勢は、表現を続けることの厳しさと可能性を感じさせました。(高村瑞世)

 

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伊坂柊 × 旅の本屋のまど 《Portal Yantra》
書店の本棚の狭間に、異界へつながる穴がぽっかり口を開いている。会場となった旅の本を扱う店には、昔の美容室にあったパーマ機のようなドームが浮かぶ。この半球に頭を差し込み、映し出された映像をみる。手元のコントローラーで、頭上を漂う本のようなアイコンを手繰ると瞬時にワープ。
書店にいながら旅をするという趣向だが、何か変だ。伊阪柊が世界で収集した大自然や建築物の映像は、極端に歪みねじ曲がっている。とんでもない場所にとばされてしまったのか。
私たちが生きるこの世界は11 次元でできているという新しい物理理論がある。4次元を超える時空は、我々の目の前に小さく小さく畳み込まれているかもしれないというのだ。
未だ実証されぬ先端理論を先鋭的な表現で可視化する。ふだん見ている世の中がすべてではない。リアルはただひとつではないかもしれない。サイエンスとアートをやぶにらみしながら示す多世界解釈がここにある。(岩尾庄一郎)

 

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奥田栄希 × HATOBA 《Bug No.10 / GLITCH / Kung-fu boy》
カラフルな衣料品の並ぶHATOBA。その2 階へ上ると洗練された空間の中に、2 つのゲーム機がポツリと置かれ、壁には1枚の絵画がかかっている。
奥側の赤と白が懐かしい「ファミコン」を操作すると何かがおかしい。攻撃しても敵は倒せず再生される。なによりジャンプができないことが不自由に感じられる。手前のゲーム機のモニターはなぜかバグの画像を映し出している。絵画もよく見るとバグの画像……。
本来ゲームには人々を楽しませるために様々な仕掛けがあるのだが、奥田のゲーム機はまるで、遊び(表現)を失い、日常化した労働のようにも思える。現実の生活の中で、楽しみ(表現)をなくしてしまったらどうなるだろう。また、バグ(失敗)は嫌がられるが、その画像は視点を変えれば美しく見えるかもしれない。
奥田の展示から、見方・とらえ方によって異なる遊び(表現)や労働のあり方を考えさせられた。(増子千博)

 

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田中良佑 × 高架下空き店舗
《疲れ果てた夜に忘れかけた夢を夢に見る see you in the dream / I want to be a POKEMON HERO》

40 年以上続く「西荻マイロード商店街」の一角にある空き店舗。この春「社会人」になったばかりの田中良佑は、学生の時は自分のためにあった「時間」が、ほぼ全て「労働」に奪われていくことに驚きを覚えます。「もっといろんなことを知りたい、もっといろんなところに行きたい、もっといろんな人に会いたい」という熱い欲望を身体に抱えたまま、彼は今日も労働に励みます。ひどい疲れが容赦なく「思い出」や「思考の断片」を奪おうとします。映像作品「疲れ果てた夜に忘れかけた夢を夢に見る」は、彼の地元でもある西荻窪にある思い出の公園を小学校時代の友達と訪れ昔の話をします。東京と中国の映像を交錯させながら描かれる穏やかでありのままの映像は、BGM と結びつきながら現実性を強めていきます。彼の心配とはよそに、これまでの人生は色あせることなく彼の中に存在していました。(三浦留美)

 

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土屋萌児 × ハンサム食堂
《The Singing Line/2013 / Hurricane Animation / たしゃうくゎうごふ / 夜道》

紙やペン、バナナの皮など身近な素材を使ったコマ撮りのアニメーション作品を発表している土屋。今回は、東南アジアの屋台を思わせるタイ料理店「ハンサム食堂」の一角にモニターを設置して作品を上映した。緻密な手作業が見て取れる映像には、サラリーマンやビル、バイクに乗る男女など、日常的なシーンが多く描かれる。リズミカルな音楽に合わせて展開する作品は、忙しなく過ぎ去る日々の中に潜む小さな喜びに気づかせてくれるようだ。(高村瑞世)

 

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林千歩 × フジクリーニング 《ぜんぶ夏のせい》
今回、林千歩は、西荻窪で70年以上営業を続けるクリーニング店、フジクリーニングで映像作品を展示しました。林自身が扮するのは、フルーツを食べながら芸術を語るアーティストのカリカチュア。
意味のない作品をつくる必要ない/ ポリティカルとか無理/ 論理的に考えて語る人、苦手/ 文脈、は? / 才能ある作家は、何を作ればいいか解る。/説明しきれないような作品/ 自分でも説明出来ない作品/ 直感的に造ったものは素晴らしい/ 一番、鋭い/ 夏は本当に嫌い
真夏のバカンスを楽しみながら、論理的な描写や、文脈も拒否して創作のパッションのみで作品を作る事を切々と語る。夏を嫌いながら、バカンスを楽しむアーティスト。戯画的に描写された芸術家の肖像が、観る人に直感やパッションの重要性を訴えます。心も身体もリフレッシュ! レッツクリーニング!(立山周一郎)

 

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東野哲史 × 信愛書店 en=gawa 《男の世界 / I Saw the Light / nekoth》
信愛書店en=gawa の店主が働く姿が映し出される。続いて作家東野哲史自身が、何やら作業をしている映像が映し出される。それは、まるで父親(店主)の仕事を真似ている子供のように見える。
ふと、空間の奥から子供の笑い声が聞こえる。目を向けると東野の子供の愛らしい笑顔が映し出されている。子供を溺愛する父親(東野)の目線がそこにはあった。
中央のテーブルには、ネコのスライドショーや映像内でつくられていた物が置かれ、壁際に目をやると古書や事務備品やダンボールに紛れ写真やインスタレーションが置かれている。決して整っているとは言い難いその空間は仕事場をイメージさせ、作品と融合し男の働く姿がそこには見えた。(佐藤卓也)

 

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橋本匠 × ビリヤード山崎 《superplay》
橋本匠は創業85年の歴史をもつ「ビリヤード山崎」で、2 階の空間を舞台に、全6 回の映像を使った即興のパフォーマンスを行いました。
ビリヤード台のなくなった2 階には、店主の好みでしょうか、絵画や洋書が置かれています。パフォーマンスが始まると彼の視点を追うように、普段はビリヤード場の背景として存在を主張することのないものたちが次々と映し出されます。映像にあわせて連想ゲームのように言葉が紡がれます。
言葉のもつイメージは身体を使って表現されますが、発せられた瞬間から形を変えていきます。長い歳月が降り積もった空間だからでしょうか、時間も空間も曖昧になっていき、夢と現実の狭間を行き来するような時間が現れました。(林真実)

開催概要

日程:2017年8月23日(水)~27 日(日)
会場:信愛書店 en=gawa、旅の本屋のまど、HATOBA、ハンサム食堂、ビリヤード山崎、フジクリーニング、高架下空き店舗
アーティスト:伊阪柊、奥田栄希、田中良佑、土屋萌児、橋本匠、林千歩、東野哲史

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