誰もが経験する、ずっと考え事をして眠れないような夜。そんな「よる」をテーマとした、「贅沢貧乏」による演劇作品がTERATORERA祭りの期間中、毎日夕刻から夜にかけて3回上演されました。会場は三鷹駅から徒歩5分ほど、商店街に面したビルの一室。虚構としての演劇が、思いがけず日常生活と隣り合っていることを示唆するかのようでした。
贅沢貧乏を主宰する山田由梨さんと、出演者3人は、11月初めから約3週間、会場であるビルに通って稽古を重ねました。贅沢貧乏はこれまでも、1年間、空き家を借りて住みながら稽古・上演する「家プロジェクト」を続けてきましたが、今回も滞在することで見えてきたものがあったそうです。
やけに消防車の音がする。隣のジャズバーの演奏会。上階の演劇教室では何やら叫ぶ声……。無音で黒壁に囲まれた劇場とは違い、いつも誰かの気配が感じられる空間でした。そして、公演当日。私たち観客が会場を訪れた時、そこには贅沢貧乏の気配が宿っていました。
公演は夜のとばりが下りるころ、真っ暗な空間で始まりました。カチカチと響く時計の音を聞きながら、一人暮らしの女の部屋がうっすらと浮かび上がってきます。部屋には三つの木箱があり、その中には不思議な「虫」が住んでいます。帰宅した女が眠りにつこうとすると、「虫」たちは喧嘩をして邪魔をする。
終盤、女は「孤独。孤独。誰にも邪魔されずに一人」と歌います。でも、部屋には「虫」が3匹もいます。贅沢貧乏の舞台は、孤独を明確にしながらも、女=私たちの中に潜む「虫」との出会いを導き、「一人ではないのでは?」という逆説的なメッセージを発していました。「虫」たちのコミカルな振る舞いにクスッと笑った夜、帰宅した観客はゆっくり眠れたのではないでしょうか。(文:阿部侑加)
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