teratotera

「人と人、街と街とをアートでつなぐ」 中央線沿線地域で展開するアートプロジェクト

TERATOTERA祭り2012
NEO公共 『シンポジウム‒新しい公共へ‒』

シンポジウム/トーク

TERATOTERA祭り2012のメーンテーマは「NEO公共」。東日本大震災後、「公共」という概念が、公共的なサービスを享受するものから、市民が能動的に関わって築くものに変わったのではないか、という問いかけです。それを受けて、被災地の人々が集う場として「みんなの家」を手がける建築家伊東豊雄さんと、公共的な空間に構造物を組み上げるアーティスト川俣正さんが、10月31日に吉祥寺で語り合いました。小川希TERATOTERA総合ディレクターの司会で、新しい「公共」のあり方を探るクリエーター同士の共感あふれるトークに、満員の聴衆は熱心に聴き入っていました。

伊東さんは震災後まもなく、4人の建築家とともに「帰心の会」を結成しました。「住む人と作る人、ボランティアがみんなで考えて作ろう」と考えたからです。そこから始まったのが「みんなの家」。「被災地の人たちが集まって食事ができて話ができる、くつろげる場所を、自分たちで資金を集めて提供する」プロジェクトです。2013年1月までに6棟が完成しています。
一方、川俣さんは2010年から東京都と共に、隅田川沿いに塔を立てるプロジェクト「東京インプログレス」を手がけている中で、震災に遭遇。被災地に入って「野外にテープルやベンチを作ったら、仮設住宅から人々が集まってきて、臨時の『みんなの家』ができた」。その経験から、「関東大震災のがれきが埋まっている東京・豊洲に、東京の家屋の廃材で『豊洲ドーム』を作りました」。
「みんなの家」について伊東さんは「(被災地は)ある意味で最も悲惨な状況ですが、だからこそ心が通い合う。逆に言えば建築家としてはユートピアのような状況がそこにある。みんなで一緒に考えてみたいと思った」と明かします。背景には、与えられた条件でコンペティションをして作られる、従来の公共建築のあり方への疑問があったといいます。
これに対して、川俣さんは、「復興のために『みんなで何かをする』ことが、ある種の倫理になっている」との懸念を表明。公共的な空間で現地の人々と関わりながら制作を続けてきた表現者として「人はわかりあえない。それが基本。そのうえでセンシティブな距離感を持つことが求められているのでは」と指摘します。
伊東さんは、被災地での建築家の活動が「ありがた迷惑に近い感覚で受け止められている」場合もあると認めつつ、「こういう時だからこそ心は開かれている。そこから何かが生まれる」。一例として、津波で失われた民家を、残った基礎部分の調査と住人の記憶を元に図面を書き、立体に起こした、東北大学の学生の卒業設計を紹介しました。
川俣さんは、伊東さんの期待感に同意しつつも、「こういう時期だから扇情的な動きやナショナリスティックな機運も出てくる」。
そう語る川俣さんに、小川ディレクターは、公共的な空間で制作するうえで「アートの役割はどこにあると考えますか」と問いかけます。
「それを見る人たちがどこかで感じ取ればいい」というのが川俣さんの答え。「僕はコーディネーターとして、日時と場所を決めて、そこに人を集めて何を作るかを話し合う。そうすると、個人を超えたものができあがり、地元の人たちもつながっていく」
伊東さんも「建築は否応なくいろんな人が関わる。その人たちによって自分が考えていたことから変わっていった方がいい建築になる」と応じます。「『みんなの家』なら、みんなで一緒に考えて作れるから、川俣さんの仕事と近いことができる」。
このあたりで、二人の「公共」を巡るベクトルがクロスした印象です。
川俣さんが「僕の場合は、アシスタントやボランティアが暴走して勝手に増築していくことで、作品は無署名になって作家はいらなくなる。建築でも、建築家のいない建築になっていくのでは」と投げかけると、伊東さんも「そうならなければいけないと思う。昔の日本の民家の美しさには現代の建築はかなわない。建築をデザインするより、そのプロセスをデザインする方が面白いと思い始めています」。
最後に小川ディレクターが「お二人とも近代的な考え方をどう超えていくかを、建築とアートの世界でやってこられた。奇しくも震災というきっかけがあって、それが明確になってきたという印象を受けました」と語って、新しい「公共」への期待とともにシンポジウムの幕を閉じました。(西岡)

開催概要

日時:2012年10月31日(水)19:00‒21:00
会場:武蔵野商工会館4F ゼロワンホール
パネリスト:伊東豊雄(建築家)、川俣正(アーティスト)
司会:小川希

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