teratotera

「人と人、街と街とをアートでつなぐ」 中央線沿線地域で展開するアートプロジェクト

コレクティブ フォーラム vol.1
ーなぜ今コレクティブなのか?ー

シンポジウム/トーク

現代アート、演劇、パフォーマンス等の世界で、昨今耳にすることの多くなった「コレクティブ」。これは複数のアーティストが共同で恒常的に表現活動を行う際に使われる言葉です。ただ歴史を紐解けば、表現者がグループを作り集団で作品を発表すること自体は現代に限ったことではなく、過去にもさまざまなアーティストグループが存在していました。しかし2010年代以降、集団形成の成り立ちは、単純に共同で作品を作るということから拡張し、より多様で独自の広がりを見せているように感じられます。
「TERATOTERA」が2回にわたって開催した「コレクティブフォーラム」は、現在進行形で活動を行うさまざまなコレクティブを紹介しつつ、現代における「コレクティブ」の意義とその可能性について探っていくための連続トークイベントです。「vol.1」のゲストには、「アジア女性舞台芸術会議(亜女会)」「美学校」「Teraccollective」、そしてゲストスピーカーとして社会学者で東京藝術大学教授の毛利嘉孝さんを迎えて、「なぜ今コレクティブなのか?」をテーマにトークを展開しました。また「vol.2」では、「サスティナビリティの獲得」をメインテーマに置き、インドネシアから「Gudskul」、札幌から「Sapporo Dance Collective」、東京から「OngoingCollective」、そしてインディペンデント・キュレーターの服部浩之さんをゲストに迎えました。
どちらの回も各参加者がコレクティブとして活動することの意義や可能性について熱心に語り、学びの多い実りあるフォーラムとなりました。また昨今の関心の高まりからか、熱心にメモを取る観客の姿も目立ちました。
「コレクティブフォーラム」は、2020年度も続けて開催する予定です。なぜ今コレクティブなのか? これからのアートの未来を照らす大きな手がかりになるであろう、その問いかけについて、さまざまな視点から考察していきます。(小川希)

 

/////以下、トーク内容の抜粋////////////////////

 

時間と空間を共有するアジアの表現者たち

■小川: 最近、「コレクティブ」という、集団で表現活動をする動きが顕著になってきています。そこで今日は、その状況を掘り下げたいと思います。

■羊屋: 「アジア女性舞台芸術会議」、略称「亜女会」には演劇や音楽、ダンスの界隈から12人が集まっています。2012年末から動き始めました。きっかけは、劇作家・演出家の如月小春さん(1956~2000年)が「アジア女性演劇会議」としてやっていたネットワーク作りを引き継げたいと思ったことでした。それで、如月さんが影響を受けていたと思われる、日本初の女性劇作家・長谷川時雨(1879~1941年)の研究会を始めました。具体的には、長谷川が女性作家たちに書く場を与えた雑誌『輝ク』を読んで、当時のことを掘り起こしたりしています。
あじょ会

■前田: 私は『輝ク』の研究会を担当しています。そこから、他のアジアの国々でも埋もれてしまったパイオニア的な女性を探すプロジェクトを始めました。2018年のTPAM(国際舞台芸術ミーティング)で、刺繍で作った大きな世界地図を展示しました。そこを通りかかった女性たちに、それぞれの国・地域で舞台芸術のパイオニアウーマンを尋ねて、それから地図と年表を作りました。ウェブサイトでもGoogle マップに一覧が出るような形でやりました。このプロジェクトは継続的に続けていきます。

■羊屋: ネットワークを作るために2014年から東南アジアに出かけています。2015年には「大地の芸術祭」の中で、東南アジアの人たちとミーティングをしました。マレーシアの劇作家の作品をワークショップ的に発表したのをはじめとして、共同プロジェクトを続けています。2017年の東京での交流会でも、それぞれの国の中で感じている状況を話してもらって、シェアしました。カンバセーションパートナー、話し合える人と出会いたいと思っていて、いつも一緒にごはんを食べながら話し合っています。2018年の8月には、ベトナムのフエに集まり、ベトナムの女優との二人芝居を作りました。最終日は、昼ごはんを食べながらそれぞれの状況を話したのですが、ベトナムでは人が集まっていると場合によっては逮捕されるので、船に乗って水上レストランに行きました。

一緒に活動する仲間を育む「温床」

■皆藤:「美学校」は1969年に設立された学校で、私はそこのスタッフをしています。現代美術以外にも音楽やファッション、デザイン、演劇なども含めて30ぐらいの講座があります。受講生は約150人で、年代は高校生から60~70歳まで、プロのアーティストも来ています。現役のアーティストに講師をお願いしているのが特徴です。日本のコレクティブというと、赤瀬川原平さんや中西夏之さんらが参加した「ハイレッド・センター」が知られています。活動時期が1962~63年なので、直接関係はないのですが、赤瀬川さんと中西さんは後に講師を務めています。最近では、「昭和40年会」の小沢剛さん、会田誠さんらに講師をしていただきました。「Chim↑Pom」のメンバーの何人かは会田クラスの出身です。Chim↑Pomの卯城竜太さんも2010〜15年、「天才ハイスクール!!!!」という講座をやっていました。
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■三田村: 私は松蔭浩之さんという「昭和40年会」のメンバーと、「アートのレシピ」という講座を10年間、続けています。1年制の講座ですが、修了生たちが期を超えて交流を深めて、タイミングごとに一緒に表現するグループを作ったりしています。美学校自体はコレクティブではないんですけど、コレクティブ的なものが生まれる温床のような感じです。

■三浦: 「Teraccollective」はアートイベントを運営するコレクティブです。TERATOTERA のボランティア「TERACCO」の中心的なメンバー16名によって2018年に設立をされました。年齢、職業は様々ですが、アーティストやアートの現場を支援してともに作り上げたいという思いを共有しています。アートイベントの企画、アーティストの選考から実施まで、メンバーが対等の立場で受け持ちます。設立前後には「助走期間」がありました。その一つが、TERACCOの企画として2018年10月に実施した「駅伝芸術祭」です。アーティストが走りながらパフォーマンスをし、タスキをつなぐという、アートとスポーツを融合させた企画でした。同じ年の11月には、Teraccollective が主導権を持って「TERATOTERA祭り2018」を開催しました。

■岩尾:「駅伝芸術祭」は僕が発案したんですが、最初は「よくわからない」と言われていました。それでも説明を続けると「なんか面白いかも」という感じになってきて、企画にのっていただきました。コレクティブの定義は、一人ひとりそれぞれ活動しながらも、集まっても何かができる、ということだと思いますが、Teraccollectiveは誰一人アートができないんです。それでも烏合の衆が寄り集まると、それぞれのスキルが合わさってなんかヘンテコなものができあがるんです。

「美術史」から周縁化された存在

■毛利: コレクティブがあらためて注目されるようになったのはこの20年ぐらいです。背景には、1990年代以降のアートシーン全体の転換があり、いろんな人が協力し合うプロジェクト型の作品が増加したことがあります。それにともなって、美術史の見直しも行われました。これまで美術館やギャラリーで展示されていた絵画や彫刻のような形式が、「美術史」の中心をなしてきました。でも、現代美術史の中心には、常に「美術史」から周縁化されてきたストリートでパフォーマンスするような集団性がたくさんあったんじゃないか、ということですね。けれども、そういうものの多くはその場限りで資料や写真が残っていないために、美術史では周縁化されていました。そのコレクティヴィズムを考えることは、美術とは何かという問いと関係があると思っています。
また、近年コレクティブがアジアや日本で集中的に生まれてきていることも重要なポイントです。絵画、彫刻を中心に形成されてきた西洋の美術に対して、もっといろいろな表現を含んだ複数の美術史が発見されつつあるということだと思います。
美術と同時に社会運動の在り方も変わりました。日本では東日本大震災の経験は大きかったし、香港では雨傘運動、韓国でもキャンドルライト・デモなどの一連の新しい動きがあった。運動が終わった後も、拠点はオルタナティブスペースやバー、カフェに分散して残っていく。そこに集まった人たちが広い意味でのアートや文化実践に関わっているというのが今の流れです。
私が関わっている例では、新宿に「イレギュラー・リズム・アサイラム」(IRA)という、CDや本など情報を扱っている場所があります。そこはいつ行っても東アジアや東南アジアなどのアクティヴィスト兼アーティストたちが集まってワイワイやっている。一見すると狭いネットワークだけれども、同時にアーティストや演劇のトランスナショナルなネットワークがかぶさるように動いているのが、アジアの現状だと思います。IRAでは「A3BC」というコレクティブが版画を作って、それを布にプリントしています。丸めると簡単に他の国へ持っていって展示ができます。その源流は、インドネシアのコレクティブによる木版画で、それがアジア全域で共有され始めているんですね。
ところで、「ドクメンタ」の次回2022年のディレクターにインドネシアのコレクティブが選ばれて話題になっています。ドクメンタはベネチア・ビエンナーレと並んで、ヨーロッパを代表する国際展です。今回の選定には、最近のコレクティブの動きに対する欧米による「収奪」という感じがないわけでもないので、インドネシアでも論争が起きています。そもそもコレクティブは、普通の人がどのようにして文化やアートに関わるかという重要な問題があって、ドクメンタとはまったく違う世界にあるわけです。一方で、20世紀までは天才的な個人による創造として語られた美術史に対して、こうしたコレクティブは21世紀的な美術の生産の様式になるかもしれない、とも思うんです。そこから何が生まれるのか。でも、ひょっとしたらそれ自体が新しいグローバル資本主義の形式を反映しているだけなのかもしれません。面白いと思いながらもジレンマを感じています。

人とのつながりから生まれる自由な活動

■小川: 亜女会は、まず話すことから始める、そこには食事がともなっているとおっしゃっていました。そのことが象徴的な気がします。演劇やアートが中心にはあるけれど、それと同じくらいに「生活」もあるのでしょうか。

■羊屋: 最初に集まったときは、合宿しながら1週間過ごしたんです。炊事も自分たちでやっていたんですけど、おいしいものをちゃんと食べるということを最初から大事にしていました。

■小川: 美学校は、基本には人のつながりがあるようですね。

■皆藤: 講師を選ぶのも「この人が面白そうだから呼ぼう」という感じですね。校長が講座を組み立てていたときは、まず飲みに行って仲良くなった人を講師に連れて来ていました。ほとんど人のつながりでやっています。

■三田村: 今もほとんど、飲んでいるだけという感じですね。他の講座の話を聞いても、ほぼサークルと同じで、一緒にアクションをすることで人とのつながりができていって、さらに自由に何かをやりだすという、そんな場所ですね。

■小川: 楽しいから時間を共有するというコレクティブの在り方に対して、一方で、作品や活動の「クオリティー」という言葉がどうしても出てきてしまいます。毛利さんは先ほど「ジレンマ」に言及されましたが、欧米が作り上げた「クオリティーコントロール」に対して、コレクティヴィズムはどう闘っていくのでしょうか。

■毛利: 難しい問題ですね。欧米のシステムの中心にあるのは依然として端的には美術館であり、ギャラリーでありマーケットです。そこでは巨額なお金が動いているし、新しいコレクティヴィズムの人たちも、それに巻き込まれ始めている。お金が動くとその配分はどうするのかといった問題は必ず出てくる。そして、ときにこの問題はコレクティブ自体に分裂やダメージを与えかねない。その危機感はコレクティブに関わっていると共有されていると思うんです。コレクティヴィズムは、アジアでは民族独立運動とか、ジェンダーやセクシュアリテイー・ポリティクスとかに関わってきたわけです。そうしたものが新たな商品として欧米で流行しつつある状況には、皆すごく悩んでいます。

■小川: インドネシアの版画コレクティブは学生運動と連動していた時期がありました。でも、社会運動の表現として使われていた版画が、美術としての価値を認められて欧米のマーケットで高額で取引されるようになったら、コレクティブは一瞬で崩壊して、すごくドロドロした感じになったそうです。亜女会は、この作品は誰のものかといった問題はどうやって解決しているんですか。

■羊屋: 亜女会の作品はそういう対象にはならないと思います。でも、西洋の人からオリエンタリズム的な感じで「アジアの演劇は面白い」とか言われて、搾取されるかもしれないと予感しています。ヒエラルキーが嫌だったので、コレクティブとして活動しているけれども、変な価値をつけられたりしたら崩壊していきそうです。そうなったらまた新しいものを見つけたいと思います。

自律しつつ緩やかにつながる

■小川: 東南アジアにはたくさんのコレクティブやアーティストランスペースがあって、行政の補助金とかはなくて、インディペンデントでやっています。それがすごく豊かだと感じると同時に、日本ではそういう人たちがいなくなった理由を考えてしまいます。学生運動の失敗もあって、集団で何かをやろうとすること自体に気が引けてしまうとか、左寄りの匂いがする、といった社会の雰囲気みたいなものがあるのかもしれません。

■毛利: 日本では、高円寺の古着店「素人の乱」などを拠点にした活動は、アジアでも有名なんです、東アジアのオルタナティブスペースは寿命が短くて、だいたい3~5年で入れ替わるのですが、「素人の乱」や「IRA」は10年以上活動しています。アジアの中でも「老舗」感があるので、必ずしも日本が遅れているという感じはないです。ただ、コレクティブやオルタナティブスペースで面白いものの多くが東南アジアにあったのは事実です。

■小川: コレクティヴィズムは左寄りの人との親和性があるのでしょうか。

■毛利: 左翼かどうかではなくて、むしろ自律性じゃないですか。地域性とかコミュニティを重視するのも、必ずしも何かに反対しているわけではない。ただ、自律してあること自体が難しくなっているので、傍からは制度に乗らない「左寄りの」連中、というふうに見られているかもしません。

■小川: 僕は「Art Center Ongoing」というスペースをやっているんですけど、そこは「社会不適応」のアーティストたちがいっぱい集まるところなんです。2016年に東南アジアを回ったときに、初めてコレクティブというものを知りました。それで「自分がずっとやってきたことは、これだったんだ」と発見した感じでした。バラバラだけど、その空間なり時間なりを共有しているというところで、コレクティブという言葉が一番しっくりきました。

開催概要

日程:2019年5月19日(日)15:00~17:00(開場 14:30)
会場:ビリヤード山崎
登壇者:アジア女性舞台芸術会議 [亜女会](羊屋白玉、前田愛実)、美学校(皆藤将、三田村光土里)、毛利嘉孝、Teraccollective(岩尾庄一郎、三浦留美)
モデレーター:小川希

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