teratotera

「人と人、街と街とをアートでつなぐ」 中央線沿線地域で展開するアートプロジェクト

第7回

ディレクターくにときの 途中下車の旅
第7回 国立

角田陽太さん(デザイナー)
2013年12月12日更新

今回はテラトテラエリアから一歩足を伸ばし、国立に途中下車。注目の若手デザイナー、角田陽太さんをゲストに迎えました。角田さんはデザイナー業の傍らウェブマガジン「OPENERS」で東京の酒場をデザイン目線で語る『東京浪慢酒』という連載をしています。「途中下車の旅」で舞台となる中央線沿線は地域に密着した素敵な居酒屋など酒処が多くあることも魅力の一つです。2人は国立に降り立ち、角田さんお気に入りのお店で「酒場やデザインのあれこれ」について話を始めました。

外観がしぶい

外観がしぶい

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國時
「これまで登場したゲストはみなさん酒好きで、飲む事について話すことも多いんですよ…。今回は角田君と渋谷で飲んだ時に『東京浪慢酒場』という連載を書いていると聞いて、俺も『途中下車の旅』をやっているって話から盛り上がって今日に至ったわけだけど、俺は楽しく飲むのが生きがいってところがあって…。角田君も結構そういう感じなのかな?」
角田
「飲むために働いていますね(笑)」
國時
「毎日飲んでいる?」
角田
「週6日くらいですね。週5日くらいは誰かと飲んでいて、1人で飲む時も週に1度くらいあるかもしれない」
國時
「ちなみにあの連載はどんなきっかけから始める事になったの?」
角田
「デザイナーとして取材を受けた時にそういう話が出て、じゃあ飲み屋巡りを記事にしたら面白いんじゃないのって流れになって…。ブログとは違って頼まれてやっている連載だから、お店に正式に取材許可を取っているし、一線で働くカメラマンも一緒に行っている。デザイナーらしくというか、写真が魅力的な画で見せる連載だから、それぞれのお店に向いていそうなカメラマンに必ずお願いしている。今回、白石(和弘)さんに頼んだのは、彼は結構古いモノが好きだから、このお店も好きなんじゃないかなと思って…」
國時
「どんなお店が好きなの?」
角田
「大衆居酒屋が好きなんです。普段は下町のお店とかにも行っている。でも下町のお店は取材NGが多くて、行きつけのお店でも『これ以上混んだらダメ』とか『面倒臭いから』って取材NG。基本的に儲ける気がないんですよね。でも、そういう方が良いじゃないですか」
國時
「勝手なイメージだけど、角田君はとにかく安くてチューハイは濃くてお会計は懐にやさしい!って所よりは料理が美味しそうな所を選ぶ気がする」
角田
「うん、料理はおいしい所の方が良いですね。金額だけで頑張っているところはあんまり行かないかもしれない。ここはほとんど食べ物ないけどね(笑)。それ以上のプラスαがあるお店が良くて、それはこのお店にもあるしね」

この対談の舞台となったのは角田さんが用意してくれた「カラスの家」。ソプラノ歌手のマリア・カラスから名付けられ、今年32周年を迎えたこのお店に角田さんが出合ったのは大学3年生の時。以来、15年弱も付き合いがある特別なお店です。角田さんは親しみを込めて女性店主を「おばちゃん」、旦那さんを「オヤジ」と呼んでいました。かつて旦那さんは近くにあった「シーマ音響」でこだわりの真空管アンプを作成、販売。ノスタルジックな雰囲気に包まれた店内にも旦那さん自慢の真空管アンプが悠然と鎮座していました。

このお店が素晴らしいのは僕らみたいなデザイナーが立ち入れない領域に入っているところ

國時
「すごく良い雰囲気だね。どうやってこのお店を知ったの?」
角田
「当時付き合っていた彼女の誕生日プレゼントとして、古いオーディオを探していたの。その時、たまたまオヤジがやっている『シーマ音響』に辿り着いて、オヤジに『カラスの家』に連れてきてもらったのが最初。オーディオをきっかけにここを知る事になって、今は繋がってないけど、ほらこれ、良いレコードプレイヤーとアンプだから、学生の頃は自分のレコードを持って週1くらい来ていたなぁ。もうアンプはピカイチだったからジャズのレコードを聴きながら飲んでいた訳ですよ」
「オヤジ」こと重松勲さん

「オヤジ」こと重松勲さん

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國時
「買ってきたレコードを持ってきてかけてもらっていたの?」
角田
「そう。勝手に自分でかけていたけどね(笑)」
國時
「お店の方が家よりも良い音で聴く事ができたから?」
角田
「そうそう。一応普段はカラオケも歌えるとこだから音量も出し放題、お店の雰囲気も好きだしね。当時僕はインテリアデザインの学科に通っていたんだけど、『オシャレデザイン、クソ食らえ』みたいな学生だったんですよ。デザイナーが作る空間って作れる空間ですよね?この雰囲気って作れるものじゃない。そういう所の方が格好良いんですよ。デザインできないもんね。このお店が素晴らしいのは僕らみたいなデザイナーが立ち入れない領域に入っているところ」
國時
「わかる。作れる空間の最たるものがチェーン店。それがつまらないのは『こうやったら効率が良いだろう』って考えて作っていて、発想が個人とは一番遠い所にあるじゃないですか。ここはおとっちゃんとおかっちゃんの生き様みたいな…」
角田
「そう。いつもオヤジはいないんだけど、今日はオレが来るって事で来てくれたみたいだね。僕がロンドンへ行く時のお別れパーティーはここでやったんですよ。その時、44人来たんです。都心からも来てくれて、もうお店に入りきらなかった(笑)。ここでやったのは本当に良い思い出だな。ここに育ててもらったと言っても過言ではない」
國時
「44人も来てくれたの?愛されてるね!今回、急遽ここで取材のセッティングをしてくれたけど、虎の子の店を出しちゃって大丈夫なの?」
角田
「いや…。でも、最近暇みたいだからお店の宣伝になって、おばちゃんが儲かるんだったらそれで良い」
歴史が刻まれた店内のグッズをチェック中

歴史が刻まれた店内のグッズをチェック中

「カラスの家」の雰囲気は角田さんが言うように作ろうとして作る事は不可能。8トラック、レーザーディスクなどの歴代のカラオケ機器やお客さんからのお土産、2人の似顔絵、カラスグッズなどがごちゃごちゃと統一感なく飾られた店内は木の年輪のように32年という年月を積み重ねてできあがったもの。お店について語る角田さんの言葉の端々からはお店に対する愛情が強く感じられました。とても居心地が良い店内は自然と会話も弾み、角田さんと國時のお酒談義は終わる気配なし。そんな時、角田さんはある計画を明かしてくれました。

角田
「実は将来的に飲み屋とかやりたくて。カウンター6、7席の飲み屋。今も物件を探しているしね(笑)」
國時
「行く行く」
角田
「…」
國時
「『来てよ』って言ってよ(笑)」
角田
「ははは、来てよ(笑)。お店をやるんだったら、妥協せずやりたい。つぶれたら自分が被るくらいの感じでやりたいし、やるからには一流のお店やりたいから。デザインもそうだけど本物が好きなんですよ。そして週に1回はお店に立ちたい。家賃が安いからちょっと離れた所でやろうって気にはならないし、やるんだったら意味がある場所でみんなが集まれる飲み屋をやりたいですよね。それってあまりそれで儲けるつもりがないから言えるのかもしれない。デザイン事務所もそうだけど、あまり大きくというよりはその稼いだお金で飲めれば良いかな。毎日どこかに飲みに行ければ良いなと。できれば友達の分も奢れればなお良いかな。そういう幸せが欲しいだけ。車や時計のようなものには凝らないし、あんまり贅沢するつもりがないんですかね(笑)」

角田さんが手掛けるお店はデザイナーらしいこだわりが随所にありそうな感じです。そんな角田さんは23歳の時に英・ロンドンへと渡りました。デザイン事務所で経験を積みながら、酒と音楽好きの角田さんは近所だったノッティングヒルにあるクラブの店員としても働いていたそうです。大学院を卒業し、帰国後に無印良品のプロダクトデザイナーを経て2011年からは自らのデザインスタジオ「YOTA KAKUDA DESIGN」を設立。洗練されて知的センスに溢れる作品を生み出す若手デザイナーとして注目を集めています。でも仕事だけに没頭することはなく、自分の時間も大切にしている角田さん。それが結果的に良い仕事へと繋がっているようです。

デザインだけやっている人が良いデザイナーな訳がない

國時
「最初に『飲むために働いている』って言っていたけど、そんなに忙しくなっても困るから仕事をセーブしたりするの?徹夜しない程度にとか…」
角田
「徹夜はしないです。徹夜する程の仕事がきてないかもしれないですけど…。外国的な考えですかね」
國時
「外国的な考え?興味あるな。生活があって仕事があって、両方を楽しめてないと仕事の質も良くないじゃねーの、みたいな?」
角田
「デザインだけやっている人が良いデザイナーな訳がないじゃないですか。それはたぶんデザイナーみんながわかっていると思う」
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國時
「俺は仕事が遅くて、昔は時々徹夜しちゃってたんだけど、年に何回か外国に行くようになって、現地の友人から『夜は飲むんだ!遊ぶんだ!』って感化されて徹夜はしなくなった。仕事ができるようになったって言うより、やらなくなった(笑)。今日はここまでって決めて頑張らないようにしたんです。ところで角田君は決まった休みがあるの?」
角田
「日曜日は基本的に働かない」
國時
「飲む以外に好きな事はあるんですか?旅行に行ったりとか?それとも飲む事がレジャー?」
角田
「そうですね」
國時
「ははは、やはりそこは俺と近いなー(笑)」
角田
「昼間から飲む方がおいしい。タモリも朝起きて最初に飲む液体がビールだとおいしいって言っていましたよ(笑)」
國時
「何だか『酒最高!』みたいな感じになってきましたが…。『よく働き、よく遊ぶ』って本当に大切だよね。そこを基本として仕事に硬派に取り組んでいる角田君のバランス感覚はすごく共感できるな。真っ当な自分の仕事をする為に生活もちゃんと楽しむというところ。酒場を巡る連載も一見デザインと関係ないけど、意外とそこを行っている。削ぎ落とされたデザインはいわゆる洗練された生活が背景にあるのではなくて、基本的には人と関わるためにデザインしている訳だから、酒場の混沌が背景の方がリアルだしね。角田君の仕事はそのあたりが直結している感じがして自分は良いなと思っているんですよ」
角田
「わざわざ言う事でもないけど、デザイナーはデザインだけに没頭するような職業じゃない。他の事も知りつつデザインしないと良いモノはできない気がするんですよね。でも俺はそんなにデザイナーという職業に執着を持っていないんですよ。いつ辞めても良い。いつ辞めても良いっていうのが文章になると問題かもしれないですけど(笑)」
國時
「でも、良いんじゃないですか。辞めても角田君だったら楽しそうな人生だ(笑)」
角田
「そう。何が大事かっていうと、トータルの人生が大切な訳で、デザイナーとしての人生が大切な訳じゃない。残念な事にまだ奥さんも子供もいないけれども、そういう幸せに憧れるし、そっちの方がたぶん大切になるはずです。早く子供とか欲しいですけど、今は子供のように思って製品をデザインし生み出しています。
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飲み屋ならではの話題で盛り上がり、途中からはおばちゃんも話に加わります。おばちゃんは角田さんが電気ブランで酔い潰れた話、酔っ払いに絡まれた時に角田さんが助けてくれた話などを楽しそうに話してくれました。2つ同時進行の取材にもかかわらず温かく迎えてくれたおばちゃんたち。オヤジさんは「ヨータ、ヨータ」と息子が帰ってきたように嬉しそうでした。角田さんが今回の2つの企画の舞台として「カラスの家」を選んだのはこのお店にたくさんの人たちが訪れ、ディープ過ぎるけど独特の雰囲気を人々に知って欲しいため。熱い話で盛り上がった角田さんと國時はまだまだ飲み足りない様子。ふたりはカメラマンの白石さんを交え、国立駅近くの2軒目へと消えて行きました。

角田陽太(かくだようた)・デザイナー

1979年、仙台市生まれ。2003年、渡英し様々なデザイン事務所で経験を積む。2007年、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)修了。2008年に帰国後、無印良品のプロダクトデザイナーを経て、2011年、自らのスタジオ、YOTA KAKUDA DESIGNを設立。さまざまな分野で国内外にデザインを発表し続けている。
YOTA KAKUDA DESIGN
OPENERS 「東京浪慢酒場」

今回おじゃましたお店

カラスの家|AV&KARAOKE SHOP
国立市西2-20-10 第2村上ビル1F
042-575-2556
営業時間:お店に直接お問い合わせ下さい

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