teratotera

「人と人、街と街とをアートでつなぐ」 中央線沿線地域で展開するアートプロジェクト

第10回

ディレクターくにときの 途中下車の旅
第10回 吉祥寺・前編

小川希(TERATOTERA チーフディレクター/Art Center Ongoing 代表)
2015年03月30日更新

2011年に始まった途中下車の旅は今回が記念すべき10回目。この節目にディレクター國時は吉祥寺駅に途中下車して、芸術複合施設「Art Center Ongoing」(以下、「Ongoing」)代表、そしてTERATOTERAのチーフディレクターを務める小川希と二部構成で対談します。TERATOTERAの活動がスタートしたのは2009年12月。そこで今回の対談では國時が聞き手となり、小川にTERATOTERAのこれまでの歩みを振り返ってもらう事に。2009年にスタートしてからTERATOTERAにはいろいろな変化が起きていました。

町に何でもあるから、アートに特化する必要がない

國時
「TERATOTERAが始まる時、小川さんからこういう事をやりたいって話を聞いたけど、今回は良い機会なので、TERATOTERAをこれまでどういう風に進めて、成果として何があったかを話してほしいと思って…。それは当初思い描いていた形になっているのか、それとも思いもよらない感じになっているのか、変化して逆に面白くなっているのか、その辺の実感している事を聞かせて下さい」
Ongoing2階のギャラリーにて。

Ongoing2階のギャラリーにて。

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小川
「最初に東京都から『この地域で何かやってみるか?』って話がきて、國時さんにも『力を貸してくれ』って声をかけましたけど、当初は東京の西側にアートの面白いスポットというか、『あそこら辺に行けば面白い事をやっているよ』みたいになれば良いなと思って始めました。地域活性とか、地域資源を活かしてとか、よくある地域のアートプロジェクトにはあまり興味がなくて、それよりはアートの先端を行くじゃないですけど、場所としてのムーブメントの方に興味がありました。地域プロジェクトは、まずまちを掃除して地域の人と仲良くなって、徐々に商店会長とかと仲良くなって、その場所で何かをやるのが正攻法としてあるかもしれないですけど、僕はそういうやり方にあまり興味がなくて、Ongoingもそうだけど、特に地域と全然仲良くしていないんですよ。地域とどうやるかというより、外からどんどん面白い人を呼んでも良いから、この地域自体が何か盛り上がっていったら良いなと思っているんです」
國時
「そのように活動を進めて、何か成果として実感するものはある?」
小川
「吉祥寺はTERATOTERAの高円寺、国分寺の真ん中にありますけど、別にまちとしてアートを求められているかと言ったら全然そんなまちでもなくて…。初めは希望がもう少しあったんですけど、やっていく内にどんどんそれが如実にわかっていきましたね。要はまちに何でもあるから、アートに特化する必要がないんですよ。でも、吉祥寺だけじゃなく、三鷹、荻窪、高円寺などでいろんな事をやって、最初に言っていたようなTERATOTERAのブランディングというか、『時々、面白い事をやっているよね』みたいにはちょっとずつなってきているかな。最近は『何かをやって下さい』という話もちょっとずつくるようになっていますね。自分で企画するというより、ゴミ処理場やJRから『アートで何かやりたい』って話がきていて…。アートのムーブメントを西側で起こすのは簡単じゃないし、1つじゃできないから、いろいろと同時多発的になっていったら良いんですけど、やっぱりアート自体が日本の中でまだまだ求められていない。お祭りごとのイベントや観光と結びついたアートは徐々にできているけど、所謂、常日頃からアートを求めるみたいな文化はないから、なかなか難しいですよね」
國時
「自分も活動していてすごく感じるのだけど、今、商業施設はアートを求めているよね。この人たちに頼むと盛り上がりが作れて集客力もあるからって目をつける人たちはこれからもいるかもしれないね」
小川
「そうですね。ただ難しいのは向こうが求めているアートって何となく想像できるんですよ。それって客寄せパンダというか、装飾としてのアートみたいな感じがあって、もう少し深い事をやろうとすると、『それはちょっとウチでは結構です』みたいな感じになっちゃうから、それが難しいですよね」
國時
「やりたい事と求められている事がちょっとズレている?」
小川
「そうですね。それをうまく繋ぐのが僕の仕事なのかもしれないけど…。パブリックであることってこういう問題を常に考えないといけないし、そればかりやっていると、つまらないアート、消費されるためのアートみたいになっていくから、それは違うと思いますし…」

最近は活動の実績が認められ、クライアントからオファーを受けるようになったTERATOTERA。これまでに小川は様々な展覧会、イベントなどを開催してきました。その中でも特に小川がTERATOTERAらしい活動と捉えているのが2012年の11月3、4日に吉祥寺・井の頭公園で開催した野外アート展、TERATOTERA祭りNEO公共「ART」。「きわどい作品もあったし、アーティストの加藤翼君がやった引き倒しは怪我人が出てもおかしくないものだったし、それを公共の場でやれたのはTERATOTERAだったからだと思う」と振り返っていました。
TERATOTERAのエリアは高円寺から国分寺と広い事もあり、小川はこのエリアの各地でイベントを開催してきました。國時は新しい相手と次々に仕事をするTERATOTERAのやり方やイベントに対する考えについて小川に質問をぶつけます。

アーティスト側の思考があって、作品的な事を考えちゃうから、あんまりプロデューサー側の思考じゃないんですよ

國時
「最初の2、3年はいろんな所のアートスポットを巡るトークイベントをやったじゃないですか。最初に作った冊子でも目星い所、ここは面白いんじゃないかって所をピックアップして、紹介しましたよね。バラバラに活動している場所や団体のネットワークができて、ある人には見えていた場所が違う所に繋がって見える景色がどんどん変わってゆく、そんな事が緩やかに起きるんじゃないかなと僕は当初思っていたけど、今日来る前にTERATOTERAがこれまでやってきた事を見てきたら、よくこんなにあるなってくらい場所を転々としていて驚いたんだけど…。それだけ、東京はやろうと思ったら、やれる場がたくさんあるという事だね。地方と違って、地方はこの場所でやるしかない、みたいなことがあるじゃないですか。繋がりに継続がないから、最初の頃に声をかけた中央線沿線のアートスポットの事を俺も忘れちゃっているのはそういう事なんだと思って…」
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7年目を迎えたテラトテラを振り返ります。

7年目を迎えたテラトテラを振り返ります。

小川
「それはそうかもしれないですね。國時さんのチャサンポーや尾道ナイトみたいなコラボレーションしていく面白さは見ていてすごいなと思いますけど、僕はそういうやり方に向いてないんですよね。やっぱり誰かとやる時はずっと付き合っていかないといけないじゃないですか。僕の場合、そんなに手広くはできないんですよね」
國時
「俺なんかは逆に初めて会う人はお互い何者かわからなくてすごくドキドキするし、イヤなんだよね。それに絶対、社交辞令みたいなものがあるしね。俺はだんだん仲良くなって、そこから次にもっと面白い事をやりたいなって段階を踏むんだけど、小川さんは初めて会った時にその感覚で話を詰めちゃうんだよね?」
小川
「そうですね。性格とかもあるのかもしれないけど、Ongoingでガッツリやっているというのがあって、そんなにいろんな所に手を伸ばさなくても良い気がしたんです。知り合って、何かをやろうってまでにすごく時間がかかっちゃうから、プロジェクト化していかないんですよね」
國時
「ひょっとすると小川さんの作り方は、例えば個性的な他の団体とかと共同してプロジェクトを行う事が難しいのかもしれないですね。決まっているから」
小川
「そうですね。責任の取り方が古臭いのかな。やっぱり、ある程度は自分が信じた作家の責任はとりたくて、そんな簡単に『あの場所でやってきて』みたいな事を言いづらいんですよね。いろいろな化学反応を求めるんだったら、本当はそういうやり方もあるかもしれないですけど、アーティストと二人三脚じゃないですけど、アーティスト側の思考があって、作品的な事を考えちゃうから、あんまりプロデューサー側の思考じゃないんですよ。だからこそアーティストの信頼みたいなものもすごく強いのかもしれないですね」
國時
「その辺も自分とは全然違うなって思うんですよね。でも、アーティストと小川さんの関係は人としての繋がりがどんどん深まっているのは知っているし、理解できます」

様々な活動を行うTERATOTERAが毎年継続して開催しているのがアートの祭典、TERATOTERA祭り。アートの展示、ライブ、パフォーマンス、トークショーなど、盛りだくさんの内容で、4回目となる今年は2月に三鷹で開催され、大盛況のうちに幕を閉じました。そんなTERATOTERAの活動に必要不可欠なのがテラッコと呼ばれるボランティア、インターンの存在。小川の活動に刺激を受け、テラッコから独立して、美術業界で働き始める人も増えてきているらしく、今はテラッコの存在意義も少しずつ変化している。東京都からはイベント団体というより、人材育成の団体として位置づけされているそうです。

もっと毒があったり、それを知る事で自分の意識が変わったり、価値観が動いたり、そういうのじゃないとやっている意味がないなと思う

小川
「TERATOTERA祭りは僕が主導で、アーティストと内容を決めていたんですけど、昨年度はテラッコ主導で全部やりました。和気あいあいとして、僕じゃできない感じはあったんですけど、これはちょっとアートじゃないなと思って…。もっと毒があったり、それを知る事で自分の意識が変わったり、価値観が動いたり、そういうのじゃないとやっている意味がないなと思う所があって…。見てくれた人の中に爪痕というか何かを残せないとやっている意味がないと思って、今年度は僕が自分で全部やるように戻しました。それは善し悪しがあって、テラッコたちが自分でやると成長していくし、それはそれですごくやりがいがあったので、来年度はまたどうするかわからないです。クオリティーの高いものかはわからないですけど、僕がやったものをテラッコたちに1回見せるのは良い事なんじゃないかなと思って…」
ギャラリーでは石川竜一さんと吉濱翔さんの「野生派宣言!」の展示中。小川さんから「それは見ない方がいいですよ」とう◯この映像を見る事を制される、、

ギャラリーでは石川竜一さんと吉濱翔さんの「野生派宣言!」の展示中。小川さんから「それは見ない方がいいですよ」とう◯この映像を見る事を制される、、

トイレ内での展示、映像を見てしまってしばし呆然の図、、

トイレ内での展示、映像を見てしまってしばし呆然の図、、

國時
「小川さんの人脈と進め方は小川さん自身にとって理にかなっていて、試行錯誤もあって一歩一歩前進があったと思うんですけど、テラッコがそこに波乱を持ってくるというか、違う感覚を持ってきて、今回は小川さんが監修したけど、テラッコから『この人を是非』みたいな動きがちょっとずつ増えると面白いと思う。そこが今後どういう風になっていくか見ていたい部分ではある」
小川
「ちょっとずつはありますね。今年2月のジム・オルークさん、巻上公一さんは僕じゃなく、テラッコから呼びたいって意見があったんですよ。國時さんが言うように僕の想像の範疇を超えるみたいなのはいっぱいやった方が良いと思いますね。今回またガッツリ自分でやって、尚更そう感じますね。自分かテラッコか、どっちかに分けなくて良いというか、混ぜてやれば良いんだって思いますね。観る方もその方がこんな事もやるんだみたいに思いますもんね」

TERATOTERAの歩みを振り返った今回はここまで。考え方に違いがあってもTERATOTERAのために積極的に意見交換をした2人。小川が思い描くTERATOTERA 、Ongoingの未来について話してくれた後編につづきます。

TEXT:下田和孝

小川希(おがわのぞむ)・TERATOTERA チーフディレクター/Art Center Ongoing 代表

1976年東京生まれ。2003年東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。2007年東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。2002年から2006年にわたり、横浜のBankARTや東京の廃校を舞台とし、1970年代生まれの作家を対象とした公募展『Ongoing』を主催。2008年に東京・吉祥寺に、芸術複合施設『Art Center Ongoing』を設立し、現在同スペースの代表をつとめる。

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