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「人と人、街と街とをアートでつなぐ」 中央線沿線地域で展開するアートプロジェクト

第3回

ディレクターくにときの 途中下車の旅
第3回 阿佐ヶ谷

森岡督行さん(古書店店主)
2012年03月31日更新

今回は阿佐ヶ谷に途中下車し、アートブックなどの古書を扱う『森岡書店』のオーナー、森岡督行さんに話を伺ってきました。西荻窪に引っ越して間もなかったチャンキーさん、高円寺に住んだことがない鈴茂さんといきなり異色ゲストと対談する変化球で普通とは違った角度から町の魅力、町に対する考え方に迫ったディレクターの國時。でも、今回の森岡さんは中央線沿線に17年も住んでいて、阿佐ヶ谷に詳しい直球のゲスト。地元の山形県・寒河江市から上京する際、高校の先生から中央線に向いていると勧められたのが沿線に住み始めたきっかけらしく、中央線や阿佐ヶ谷について熱心に語る森岡さんの言葉の端々からはディープな"阿佐ヶ谷愛"が感じられました。

フリーで仕事を作っていく狩猟系が多い

森岡
「昔、『芸術新潮』で橋本治さんが縄文派、弥生派ってものの考え方で物事を分けていました。縄文派はデコ車、族車、岡本太郎とか、エネルギーがボコボコと放出している感じですね。橋本さんがどういう風に考察していたか、詳しくは忘れたけど、イメージだけを引き継いで言うと、中央線は縄文派の人が多いかなって思いますね」
國時
「縄文派?ですか?」
森岡
「弥生派は農耕だから組織に属して給料をもらうって勝手なイメージがあるんですけど、高円寺や中野にいる人はフリーで仕事を作っていく狩猟系の方が多いと思いますね。阿佐ヶ谷にもいますけど、どちらかというと大学教授や文豪がいるイメージかな」
國時
「僕、完全に狩猟系です(笑)」
森岡
「僕も狩猟系ですね(笑)。前回のコラムを拝見して、桜井鈴茂さんが仰ってましたけど、狩猟系は生きるか死ぬかってことになりますよね。人生は楽しいかもしれないけど…」
國時
「鈴茂さんは完全な狩猟系ですよ(小声)」
森岡
「でも狩猟系が成り立つ都市ってそうはないですよ。東京は都市規模だとGDPが今でも世界1位ですよね。世界中の都市でも東京とニューヨークが圧倒的ですよ。それくらい経済力があるところでないと無理だと思います。でも東京は都市として成熟しているんでしょうかね?中央線は文化度が高いって話がありますけど、実際のところ、どうなんでしょう?」
國時
「中央線のイメージも少し古いものになってきているのかもしれない。それってヒッピーとか学生運動の時代がベースになっているイメージですかね。あとミュージシャンが形作ってきたカルチャーとか。でも、最近は1つ1つの町が持つイメージってどんどん薄まってきている。近頃よく思うのですけど、何でも簡単に享受し合える世の中になりましたよね。趣味がほんと多様化していますし、それをわかり合う仲間ともネットですぐにつながれる。実際、町の中でも自分の興味のあるものしか見てないし、そこにいれば気持ちがいいって風潮もありますよね。だから全体で町を語るのはだんだん難しくなっていると感じています」
森岡
「それはありますよね」
國時
「森岡さんがお住まいの阿佐ヶ谷について話しましょうか?僕、実は阿佐ヶ谷のこと全然知らなくて。魅力的な場所があれば教えていただけますか?」
森岡
「阿佐ヶ谷はお勧めのお店がいっぱいあって、ここ『バルト』もそうなんですけど、ギャラリー兼カフェの『ひねもすのたり』は和食のランチが非常に美味しいんですよ。イベントもすごく充実しているし、お勧めですね。あと北口にあるギャラリー『CONTEXT-S』は、面白い展覧会を定期的にやっていますね。あとは『馬橋稲荷神社』。ここは厳かで良いんですよ。真っ暗な住宅街にあるんですけど、提灯が参道にずらっと並んでいて、幽玄の世界というか、すごく雰囲気があるんですよ」
國時
「どこも良さそうですね。ぜひ今度ツアーしてみます。でも馬橋神社で提灯の脇から森岡さんが現れたら、別な意味でハッとしそうです(笑)。ちなみに住んでいた年数で言うと阿佐ヶ谷が1番長いんですか?」
森岡
「中野にトータル10年くらいいたんじゃないかな。阿佐ヶ谷は6年くらいですね。阿佐ヶ谷はお店が多いし、商店街が充実しているし、非常に住みやすいですね。パールセンターの中程にはお地蔵さんが2つあるんですよ。いつも生花がきれいに飾ってあって、時々、供物とかもあって、今でも慕われているんだなって思うんです。そこに鎌倉古道だった謂われが書いてあるんですけど、お地蔵さんの顔はやっぱり割れていて、明治の廃仏毀釈の名残を窺い知ることができますね」

他にも書ききれないくらいのお店を紹介してくれた森岡さん。待ち合わせ場所から対談するお店へ移動する時も熱心に阿佐ヶ谷の魅力を話してくれました。その時、驚いたのがこの時代では存在自体が珍しい貸本屋が同じ道にいくつもあること。さすが阿佐ヶ谷将棋会の町。文学と深い関わりが残っているようです。貸本屋以外にも個性的なお店が多く、散歩するだけでも楽しい町だと感じました。森岡さんはお店だけでなく、阿佐ヶ谷の歴史にも詳しく、興味深い話を教えてくれました。

阿佐ヶ谷を歩いていると暗渠(あんきょ)がいろんな所に出現してくるんですよ

森岡
「阿佐ヶ谷は武蔵野なんですけど、起伏が割とあるんじゃないかなと思っていて…。急な坂ではないんだけど、やっぱり谷って言うぐらいだから。荻窪も西荻に行く方がちょっと窪んでいますよね。あと、阿佐ヶ谷を歩いていると暗渠(あんきょ)がいろんな所に出現してくるんですよ。暗渠は川を塞いだ跡で、駅の北口の方に1つ、南口の方にも1、2つくらいありますね。南口を出ると川端商店街があるんですけど、そこの米屋のおばあさんに聞いたら、やっぱり川端商店街って言うくらいだから、昔、店の前には川が流れていたって話です。寿々木園って釣り堀の前も暗渠なんですよ。」
國時
「アンキョって初めて聞く言葉ですね。見てわかるんですか?」
森岡
「わかります。蛇行していたり、下にマンホールがある雰囲気だったり、明らかに川を埋めたって感じがするんですよ。裏原宿のキャットストリートは渋谷川の暗渠ですね」
國時
「じゃあ阿佐ヶ谷は意外と住むには大変な場所だったんですか?」
森岡
「どうなのかな。大正の初めくらいに中野駅と荻窪駅の中間に1個駅を作ろうって話になって、その中間にある馬橋って地区に馬橋駅を作る話になったらしいんですけど、馬橋の人たちが反対運動を起こしたみたいです。昔の事だから、うるさいとか、必要ないとか、そういうことだったのかな。そんなわけで阿佐ヶ谷村の人たちが『じゃあ私の所に駅を』って話になったらしいんです。でも、当時の鉄道省としては、阿佐ヶ谷は荻窪に寄りすぎていると反対して…。当時、成田東に住んでいた国会議員が中野と荻窪の間の駅を2つにしようと提案して、高円寺駅、阿佐ヶ谷駅ができた。阿佐ヶ谷村の人は駅の誘致に尽力してくれたからがお礼をしたいと言っても代議士は受け取らない。それなら人力車が通れるように代議士の家まで道を拡張しようという話になり、パールセンターが成田東の方まで拡張されたと書いてありました」

阿佐ヶ谷駅がなかったかもしれないというのは驚きの事実。日本史や世界史と同じ感覚で自分の町の歴史を調べたら新しい発見があるかもしれません。対談当日、子供を乗せるシートが付いた自転車、いわゆるママチャリで待ち合わせ場所にやってきた森岡さん。待ち合わせ場所に選んだジェラート店「シンチェリータ」は子供とよく行くお気に入りのお店だそうです。そんな父親の顔も持つ森岡さんが時々、子供を連れて遊びに行くのが前川國男氏設計のテラスハウスのある阿佐ヶ谷住宅。森岡さんはこの住宅の魅力を語り始め、話題は建物の話へと移っていきます。

あのビルは他には代え難いなって…。建物の趣にやられました。

森岡
「中央線沿線に住み始めた頃は全然気付かなかったけど、60、70年代に建ったマンションが非常に格好いいなと思っていて…」
國時
「伺ったところによると『森岡書店』は昭和2年に建てられた建物なんですよね。建物に対してこだわりがあるんですか?」
森岡
「古いものが好きですね。中野に住んでいた頃は『中野ハウス』って昭和初期のアパートに住んでいました。そこは阿佐ヶ谷から続く桃園川の暗渠の際にあって、古いのにロフトもあって、上が寝床なんですけど、その下に石炭置き場がありました。もうなくなっちゃいましたけど、あそこは良かったですね。そういう物件にはすごく反応しますね」

森岡さんは大学を卒業後、神保町の古本屋に就職し、当時は会社を辞めるなんてことは全く考えていなかったそうです。それが突然、8年勤めていた会社を辞めてビジネス街の茅場町に『森岡書店』という古本屋兼ギャラリーをオープンしました。森岡さんが独立したのは2006年のこと。それは話題に出たビルとの運命的な出合いから始まりました。

國時
「もともと頭のどこかに独立という考えはあったんですか?」
森岡
「あの頃はなかったですね。定年まで古本屋に勤める気でいたんですけど、あのビルだったらやってもいいんじゃないかなって衝動がありまして…。初めてあのビルに入った時、素晴らしいなって思ったんですよね。元々、僕が借りている部屋は古道具屋が入っていて、そこに行ったら、もう辞めますって貼り紙がしてあって、それを見た時、この場所だったら古本屋をやっても良いんじゃないかなって思ったんです。歩きながら古いビルとかを探すのが好きだから、いろいろ見ている方だと思うんですけど、あのビルは他には代え難いなって…。建物の趣にやられました。」
國時
「入り口からして雰囲気ありますよね。たしかに趣がホワイトキューブのギャラリーと違うから、展覧会をやりたい方も多そうですね。僕が伺った時は企画展をされてましたけど、スペースの貸し出しの場合、誰でもレンタルできるのですか?」
森岡
「審査はしてなくて、気に入ってやってくれるんだったら、どうぞってスタンスでいたいなと思っているんですけど、公序良俗に反するものとグロテスクなものはちょっと合わないと思って2回断ったことがありました」
國時
「これまでの展示履歴を見ると、お店の空気に合っている方がやられているように思います」
森岡
「作家さんが合わせてくれている気はします。基本的には気持ちを共有できる方だと思うんですけど若干ブレがあって、作家さん毎にガラっと店内の雰囲気が変わっていくのも面白いんですよね。カメラマンさんのイベントに参加した時に知り合った方に紹介され、テキスタイルデザインをしている方が展示する事になったんです。この後、展示に来て下さった方が次に展示されることが続いて、イラストレーターの真鍋太郎さんの展示の時にピーコさんが来て、ピーコさんには2回展示してもらいました。すぐにはそういう話にならなくて、ピーコさんが自分の本を持ってきてくれて、本当に感動したのでお礼のお手紙を書いたんですよ。それはそれで終わったんですけど、友達が青山で展覧会をした時、会場を探していたらゲリラ豪雨が降ってきて、雨宿りしていたら向こうからピーコさんが歩いてきたんです。そこがピーコさんの事務所の入口だったんですよ。寄っていきなさいって言われて、事務所には『CAZ』って雑誌で連載していた時の絵がいっぱいあって、じゃあ展覧会をしましょうって話になりました」
國時
「それって偶然なの?って思いますよね。」
森岡
「そういうことが本当に多くて有り難いです。それでやってこられました。本屋だけだったら今頃は亡き者になっていたと思うんですけど(笑)」

そんなアーティストたちの文化交流の場にもなっている『森岡書店』。ほとんどギャラリーの宣伝をしなくても、人と人との繋がりを大切にしている森岡さんの誠実な人柄、そしてお店の雰囲気に引かれて、展示会をやりたいという方たちが後を絶たないようです。本の仕入れや販売、展示会の準備など、店のことを全て1人でやる森岡さんは時間がなく、日曜の午前中しか子供と遊べないそうです。そんな多忙な中、仕事とは別にライフワークにしているものがあります。それは対外宣伝誌を集めること。十数年前に対外宣伝誌『FRONT』を作っていたデザイナーの多川精一さんの著書を読んだのをきっかけに収集を始め、自宅には山積みされた大量の対外宣伝誌があるそうです。最後に森岡さんはこの対外宣伝誌について熱く語ってくれました。

対外宣伝紙をまとめる仕事を結実して、本として出版したい

森岡
「今年は対外宣伝誌をまとめる仕事を結実して、本として出版したいなと思っています」
國時
「戦時中に出版されたプロパガンダ誌ですよね。一度あるレクチャーに参加した時に内容をスライドで見たことがあったのですけど、クオリティがもの凄く高い!」
森岡
「『FRONT』は傑出してますよね。復刻版もあるんですけど、それも高いんですよ。オリジナルだと1冊20万円くらい。それで買えるからまだいいかな」
國時
「芸術作品や骨董と考えたら、20万円だったら欲しい人はいますよね」
森岡
「元々そんなに作ってないんですけど、現存する数が少ないんですよ。敗戦の時にそれを持っていると戦犯に問われるという危惧があって、『FRONT』は地下のボイラーで焼いたって多川さんが記述していますね」
國時
「それに携わっていたアーティストたちは何で罪に問われなかったんですか?」
森岡
「一般の兵隊が罪に問われないのと一緒だと思います。でも、戦後に糾弾されたらしいですよ。」
國時
「その対外宣伝誌をまとめて形にしたいんですね」
森岡
「対外宣伝誌を紹介する本を作りたいです。『FRONT』や『NIPPON』だけじゃなくて、たくさん種類があるんですよ。それを8月くらいに形にして、10月に版権の売買をするフランクフルト・ブックフェアという見本市に持って行きたいと思っていて…。そこで交渉して海外で出版するのが僕の夢なんですよね」

掲載している森岡さんがお勧めするお店やスポットはごく一部。森岡さんは阿佐ヶ谷の魅力を伝えようと本当に熱心にいろいろなお店の事を教えてくれました。対談後も歩きながら、阿佐ヶ谷を案内してくれて、心から阿佐ヶ谷という町を愛していると感じました。また、多岐に渡って知識があり、古き良きものもこよなく愛する森岡さん。きっと、店頭に並べている古書1冊1冊にも強いこだわりと深い愛情があると感じました。対外宣伝誌に興味のある方は森岡さんの夢でもある著書の発売を楽しみにして下さい!

TEXT:下田和孝

今回おじゃました店

SIN CE RITA(シンチェリータ) 阿佐ヶ谷店 | ジェラート専門店 |
杉並区阿佐谷北1-43-7
03-5364-9430
営業日: 無休 11:00~21:00
http://shop.sincerita.jp/

バルト| Bar&Food |
杉並区阿佐ヶ谷南2-21-9
03-3315-0751
http://wald2006.seesaa.net/

イネル | カフェ |
杉並区阿佐ヶ谷北2-12-7
03-6311-1847
営業日: 月、木 14:00~17:00 金(第2・4)、日18:00~23:00
土14:00~23:00
http://inelle.petit.cc/

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