teratotera

「人と人、街と街とをアートでつなぐ」 中央線沿線地域で展開するアートプロジェクト

第5回

ディレクターくにときの 途中下車の旅
第5回 吉祥寺

樽本樹廣さん(古書店店主)
2013年02月21日更新

今回は中央線でも特に人気の吉祥寺駅に途中下車します。住みたい町ランキングでも常に上位に入る吉祥寺。この町でセレクトブックショップ「百年」を経営する樽本さんをゲストに迎えます。実はTERATOTERAで樽本樹廣さんとディレクターの國時の絡みは初めてではありません。國時が司会を務めた店長会議というイベントが開催されたのは1年半前。吉祥寺のお店の店長たちが集まって話し合う店長会議に樽本さんも参加していました。このイベント後、また樽本さんと話したいと思っていた國時。でも、なかなか時間が合わずに実現しませんでした。そして今回、トークの場所を途中下車のコラムに移してようやく再会。店長会議NEXTと題し、吉祥寺に店を構える樽本さんと西荻窪に自分の洋服を置くショップを持つ國時がお店や町について本音で語り合いました。

お店同士が繋がる時の理想はやっぱり経済的なもの。

國時
「店長会議に出ていただいたじゃないですか?主催者側として申し訳ないんですけど、結構不完全燃焼だったなって思っているんです。皆、店長さんはすごい熱意を持って来てくれて、会としては良かったんですけど、その後、どうしていくかみたいなのがなくて…」
まずはタイのビールSINGHA( シンハー)で乾杯。 店長会議NEXT のはじまりはじまり....

まずはタイのビールSINGHA( シンハー)で乾杯。
店長会議NEXT のはじまりはじまり….

樽本
「あの時は出させて頂いて、ありがとうございました。店長会議は『吉祥寺についてどう思うか?』『町全体を盛り上げていくにはどうすればいいか?』みたいな事が趣旨だったと思うけど、そこはあまり機能していなかったなぁという気はしたかな。僕も難しいと思ったけど…」
國時
「皆、本当に吉祥寺で頑張っている人たちだから思いは割と近くて、会に来たら繋がって、一緒に何かできたらいいなみたいな感じだったけど…。TERATOTERAとしては、そういう集まりをお膳立てしたいんだけど、集まった店主たちは周りを頼ってないし、独立していましたね。集まりの後、他のお店の店長と連絡を取り合ったりしましたか?」
樽本
「顔見知りになったというか、あいさつするようになりましたね。でも、お店同士で何かやるとか、そういう経済的な繋がりはなかったなぁ。お店同士が繋がる時の理想はやっぱり経済的なもの。僕ら店長、経営者からすれば、経済的な繋がりがない限り、イベントはやる意味がないと思っています。國時さんが西荻でやっているチャサンポーも経済的な効果がなければ皆やらないと思うんですよ」
シンハー、チャーン、シンハー、チャーン... を繰り返すうちに、会話のボルテージも上昇中

シンハー、チャーン、シンハー、チャーン…
を繰り返すうちに、会話のボルテージも上昇中

國時
「そこをわかって店長さんを集めてあげないとダメですよね。地域密着だからといって店長さん達を呼んで1回話をするだけならやらない方が良いと感じていました。そういう事もわかって繋げないと意味がないと思っていたんです」

店長会議の反省から始まった今回の対談。一見、物静かな印象の樽本さんですが、話を聞いていると一本筋が通っていて内に秘めた熱いものがあります。そんな樽本さんは東京・練馬区の大泉学園の出身。地元からバスが出ている吉祥寺には小さい頃からよく遊びに行っていたそうです。そして、父親が30年近く事務所を構えているのも吉祥寺。そんな馴染みのある吉祥寺にお店をオープンしたのが2006年でした。大学卒業後、樽本さんはどんな経緯があって百年をオープンしたのでしょうか…。

お店で社会を変える事はできると思ってやっているんです

國時
「お店はずっとやりたいと思っていたんですか?」
酔いをさましつつ、中道通りを行く。

酔いをさましつつ、中道通りを行く。

樽本
「いや、大学は日芸の文芸を出ているんですけど、文芸にいたので小説を書いたりしていました。文学賞の選考に残ったりした事がよくなくて、作家としてやれるかなと思ってねばっちゃったんだけど…。僕の表現したかった事は小説を書いてた時も今も全然ブレてなくて、社会をよりよくしたいって事なんですよね。昔小説を書いていましたって言うと、何かを諦めてお店をやったとか、そんな風によく言われるんだけど、そういう事じゃなくして、全く変わらないですね。お店は表現だと思っているし、お店で社会を変える事はできると思ってやっているんです」
國時
「お店を始める前は別の本屋さんに勤めていたんですか?」
樽本
「渋谷にある啓文堂という新刊書店に5年くらい勤めていました。バイトだったけど色々任せてもらって、それなりに楽しかったし、自由もあったんだけど、本が好きなのにどんどん笑顔がなくなっていって…。本というモノが単純に商品化されていくのを書店に勤めていてすごく感じて、それがすごく嫌でした。楽しいしやり甲斐もあるから何となく続けていたんだけど、25、26歳くらいかな、すごく好きだったバンドのSUPERCARが解散したんですよ。その時に僕のモラトリアムがここで終わったなと思いました。30歳も見えてきて、今の妻ですけど、彼女も普通に働いていて、どこかで踏ん切りをつけないといけないと思って、その解散をきっかけにちゃんとやろうと決めました。本屋というよりはお店をやりたいなと思っていて、ただ本しか知らなかったから本屋を始めたんです。新刊書店はとてもじゃないけど、利益を出していくのは難しいし、だったら古本屋をやろうかなと…」

自分のお店をオープンする前、セレクトブックショップやオシャレな古本屋の走りのお店に通っていたという樽本さん。でも、「つまらない」「こうすればいいのに」「だから儲からないんだ」と多くの疑問や不満を抱いたそうです。それらの書店のスタイルは樽本さんが求めているものではありませんでした。そして、自分がやりたい事、理想を形にした書店が「百年」でした。

國時
「百年というお店の名前の由来ってなんですか?」
樽本
「内田栄一って監督、アングラ劇作家がいて、映画『きらい・じゃないよ2』に百年まちっていうのが出てくるんですよ。百年まちは水子の町、死者の町。古本って死んだもの、幽霊みたいなものだなと思って、百年って1世紀が終わると1から100まで行くとまた0に戻るわけじゃないですか。これって生と死を繰り返しているなと思って。古本は生と死を繰り返しているようなものだなと思って、その中で出合い、出合ってしまう場所として百年がある」
國時
「百年続く店って意味じゃないんですね(笑)」
樽本
「それも目指してます(笑)」
國時
「今後、百年をどうしていきたいと考えていますか?たとえば外売りとか?」
樽本
「展覧会とか即売会は基本的にはやらないです。何でかというと、町とお店と本、この三位一体がないとウチの魅力ではない。それがあるからこそ、お客さんはウチで本を買ってくれると思うし、あの場所で提案、表現しているものを汲み取ってくれているから買ってくれる。店から離された場所で売ってしまうと、その意味がはく奪されてしまうし、それは僕のやりたい事じゃない。社会をよりよくしたいって言ったけど、僕はお金の価値観を変えたいと思っていて、お金の価値観を変える事こそが社会をよりよくする事だと思っている。だから1冊1冊の本に見合う価値をつけたい。それがモノから解放する事だと思うから。國時さんが作っている服だって決して安くはない。だけど、國時さんが作っている服って思いもあるし、それを汲み取れるから、その値段を払えるし、払う価値がある。それって重要な事だし、お金の使い方として正しいと思うんです」
國時
「なるほど。ところで、お店にはどんな本を揃えていて、その本はどのように仕入れているんですか?」
樽本
「お客さんから買い取る事が多くて、あとは月曜から金曜まで、神田の神保町でやってる古書籍商業協同組合、通称古書組合の市場ですね。僕、好みっていうのがほとんどなくて、何でも来いなんですよ。選ばない事を選ぶっていう事はお客さん限定しないって事だし、やっぱりお客さんの方が本を知っていると思うから僕らは場所を用意するだけ。お客さんのターゲットは同世代ですね。オープンした時、僕は20代後半だったけど、今は成長してるから30代半ばとかかな。お店も同じように成長してるから棚の幅の広がりっていうのも出てきていますね。もちろん若い子たちにも反応したいし、反応できるだけの反射神経を持っていたいと思う。店には中の上くらいの本を置こうと思っています。いわゆる定番の本を卒業した人たちが来るような店。定番の本を読んだ人たちがもうちょっと本について知りたいと思った時に対応できる場所でありたい。もうちょっと詳しく、幅広く、未知の本と出合いたいなと思った時に出合えるような場所、そんな本を揃えたいって考えてます」
國時
「市場ではよく顔を合わせる人もいると思うんですけど、同業者でこいつできるなって人もいますか?」
樽本
「もちろん。でも、僕の最近の不満はウチを批判というか、批評できるようなお店がない。僕がしてきたようにつまらない、どこがダメとか言って乗り越えてくるようなお店があれば、ウチもさらに乗り越えてやるんだけど、なかなか現れない。新しいお店は出てきてるけど、つまらないし、新しくない」
國時
「オープンして7年って僕には未知の領域ですけど、始めた時から積み重ねてきて、当初思っていた事と変わってきた事ってありますか?これからやってみたい事とか…」
樽本
「やりたい事がより多くなってきたかなぁ。今は次の店舗をやりたいと思っています。将来的には地方に店を出したいなと思っているんだけど、まずは都内ですね。何をやるかはほぼ決まってるんだけど、お店の場所がないだけ」
國時
「じゃあ条件さえ揃えば今すぐにでも?」

思わぬ形で樽本さんが新しい事にチャレンジしようとしていると知って興味津々の國時。樽本さんは新しいお店について話してくれましたが、もちろんお店の詳細はここには掲載できません。「百年」が好きな方は樽本さんが手掛けるかもしれない新しいお店のオープンを楽しみに待っていて下さい。続いて、隣駅なのに雰囲気がガラリと変わる吉祥寺と西荻窪、それぞれの町の話題へ。たくさんの店があって多くの人が集まりますが、その分、お店同士の競争も激しい吉祥寺。そして、2人とも商売をするには大変な町と考えている西荻窪。2人はそれぞれ自分たちの町への思い入れを熱く語り合います。

現場から町は面白くなっていくと思う

國時
「サッカーに例えると、吉祥寺はプレミアリーグで、西荻はオランダリーグ。やっぱり吉祥寺は色々な意味でプレッシャーがガンガン来る感じですよね。イメージで話しちゃったけどこの例え、合っているのかな(笑)。生き残るのは大変なんだろうなと思っています」
場所を移して落ち着いた雰囲気のアイリッシュバーで、 ドラフトビールKILKENNY( キルケニー) を1パイント。

場所を移して落ち着いた雰囲気のアイリッシュバーで、
ドラフトビールKILKENNY( キルケニー) を1パイント。

樽本
「吉祥寺は大手もいる事はいるからね。ただ、やっぱり吉祥寺の何が魅力かと言ったら、個人経営の小さいお店。それが町を形成していると思う。決して大きいお店が吉祥寺を特色づけている訳ではないと思うし、逆に言えば小さいお店だけでも良くないけどね。結局、ソーシャルデザインって現場だと思うんですよ。たとえば吉祥寺にデパート作りました。これはハードなデザインですよね。吉祥寺だからどんな職業の人を呼べばいいか、これはソフトですよね。ただそれで町が面白くなるかというとそうではないと思うんですよ。大事なのは現場だと思っていて、ソフト揃えて終わりじゃないし、持続可能な社会じゃないけど、日常は継続していくわけじゃないですか。その中でどうすれば面白くなるのかって考えた時、やっぱり現場なんですよね。現場が面白くないと続いて行かないわけですよ。そこを大事にしないと広がりもないし、現場から町は面白くなっていくと思う。百年は現場という立場からやっていて、小さいお店からどうやって社会を変えられるかって事を目指している。それこそアートだったりロックだったり、一気に物事を変える事はできないかもしれないけど、小さなお店からできる事もあるし、僕はそうやっていくしかないなと思っていますね」
國時
「そうですよね。おもしろい事をやろうと思ったら1回は誰でもできるんだけど、また次やって改めて面白いと思ってもらう事はすごく難しい。1度ボーンって花火のようにイベントを打ち上げても次の年やらないんだったら、そんな事はやらなくていいと思う。商業施設や自治体が次々と色んな企画を立ち上げて続かないのは持続性を持ってないから。流行だけを捉えて一過性のイベントを考えるのはいいけど、その先に何があるのかよく考えた方が良いと思う」
樽本
「それってお客さんもわかるんですよね。見透かされるというかね」
國時
「話は変わりますけど、西荻ってどうですか?唐突ですね。この質問をすると西荻好きの皆さんは声を揃えて居心地の良さをあげるんです。最近良く考えるんですけど、この西荻の居心地の良さって世界中の居心地の良い他の町と比べて実際のところどうなんだろって。僕、サンフランシスコが大好きで、サンフランシスコにかぶれているんですけど(笑)サンフランシスコの人ってローカルな話題が大好きで、モノを買うよりも体験したいって気持ちが強い。むこうで仲良くなった生粋のカリフォルニア人が日本に何度か来た事があって西荻に連れてくると本当喜ぶんですよ。狭いお店で『ギュウギュウだ』って言って飲むのが楽しいみたいで、極めつけの質問が『こんな素敵な店はまさかチェーン店じゃないよね?』と。『この店はここしかないよ』と答えると腑に落ちるみたいです。特別な場所に来たと満足するのでしょうね。そういう意味では西荻ってちょっと資本から外れている感じ、なのですかね。サンフランシスコもロンドンも商売するには甘くないでしょう。『お店をやりたいから始めました』みたいな初々しいお店って存在できないんじゃないかな。だから都会でこんなに個人店がちょこちょこある町ってないんですよ。ひょっとして世界的に見ても貴重な町なのかも!って個人的に盛り上がっているんです。この西荻のポテンシャルは東京の観光地として十分成立するんじゃないですかね。ジャジャーン!もし僕が世界に向けた西荻ガイドブックを作ったら、『百年』も紹介していいですか?」
樽本
「いいですよ(笑)。西荻にくくって下さい。区と市だけど(笑)」
國時
「そこは海外のガイドブックに間違った情報が載っている感じで(笑)。妄想が膨らみすぎました。気を取り直して、最初に戻りますけど、店長会議に来てくれた時の店長さんたちの雰囲気って僕が思っていた以上にテンションが高くて、そして吉祥寺に並々ならぬ思い入れがあって、自分はそこで司会をしたけど応えきれなかった。それを個人的に悪い事をしたと思っていたんです。だから今、ふたたび樽本さんとこうしていろいろと話をすることができてとても嬉しいです。今日は本当にありがとうございました」
樽本
「僕もいろいろ話ができて良かったです」
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皆様、百年へどうぞ!

皆様、百年へどうぞ!

次回は樽本さんが新しいお店をオープンした後に会って話そうと約束した2人。樽本さんも國時も自分たちのお店の事だけでなく、町全体を元気にしたいという気持ちが強いという印象を受けました。西荻を海外の方たちが楽しめる観光地にしたいという國時の壮大な計画も明らかになった今回の対談。2軒目のバーでも町やお店の話題で盛り上がり、國時は樽本さんが構想中の新しいお店を必死に西荻に勧誘していました。さて、樽本さんはどの町にどんなお店を構えようと考えているのでしょうか…。

TEXT:下田和孝

樽本樹廣

1978年東京生まれ。大学卒業後、新刊書店で5年間勤め、2006年8月東京・吉祥寺に「百年」をオープン。古本を中心に新刊・リトルプレスなどを扱う。不定期ではあるが、自主企画としてトークイベント・展示・ライブ・一晩スナックなどを行う。コンセプトはコミュニケーションする本屋。

OLD/NEWSELECTBOOKSHOP「百年」のご案内
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180-0004 東京都武蔵野市吉祥寺本町2-2-10 村田ビル2F
Tel / Fax: 0422-27-6885
営業時間: 月曜-金曜日/12:00-23:00
土曜/11:00-23:00
日曜/11:00- 22:00
火曜/定休日
http://www.100hyakunen.com/

今回おじゃましたお店

アムリタ食堂|タイ料理
武蔵野市吉祥寺本町2-17-12
0422-23-1112
【平日】Lunch 11:45-14:30(LO) 15:00(Close) / Dinner 17:00-22:20(LO) 23:00(Close)
【土・祝日】Lunch 12:00- / Tea -17:00 / Dinner 17:00-22:20(LO) 23:00(Close)
【日・連休最終日】Lunch 12:00- / Tea -17:00 / Dinner 17:00-21:50(LO) 22:30(Close)
http://www.cafeamrita.jp/

ROGUE|Bar
武蔵野市吉祥寺南町1-11-6
0422-42-0654
火曜定休
*営業時間はROGUEホームページでご確認下さい。
http://www.beerpub-rogue.com/drink.html

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