TERATOTERAもインターナショナルにしていくって事はやりたい
- 國時
- 「TERATOTERAとしてこれから考えている事はある?」
- 小川
- 「どうできるかわからないですし、東京都との共催事業なので『これが都民にとって何の意味があるのか?』みたいな事を考える必要があるとは思うのですけど、最近、Ongoingでレジデンス(その土地に滞在し、作品の制作活動を行う事)を始めた事もあって、TERATOTERAにも海外の作家を入れたいと思っているんですよね。レジデンスで2ヶ月滞在している時に『OngoingだけじゃなくTERATOTERAにも参加しない?』みたいな感じにしたいですね。言ってみれば、『瀬戸内芸術祭』や『あいちトリエンナーレ』の1/10、いや1/30の規模もないんですけど、TERATOTERAもインターナショナルにしていくって事はやりたいですね」
- 國時
- 「小川さん以外で周りにその部分を共有できる人はいるんですか?」
- 小川
- 「Ongoingのスタッフは僕の思いをわかっているからいろいろ手伝ってくれるし、TERA English(アートの現場で必要とされる英語表現を学ぶプログラム)を始めたから受講した人が入ってくれるのが理想かなと思います」
- 國時
- 「すごく面白い事をやっていても、それをまとめてアーカイブで見せたり、FACEBOOKやホームページで随時情報を更新して行く作業ってなかなか難しいじゃないですか?でもそれを怠ると当事者やその日来てくれたお客さんしか楽しさを共有できないんだよね。逆に言うと、たいした活動してなくても見せ方次第ですごく魅力的に演出する事も出来る。これから海外のアーティストが出入りして国際的な動きがあるのなら、なおさら活動を見える形で発信するべきだと思うんだよね。テラッコでプログラムを実現する事にやりがいを見いだす人は多そうだけど、淡々とWEBを更新…といった地味な作業はなかなか難しいのかな?」
- 小川
- 「『TERATOTERAらしさを外に出していきましょう』って言ってくれる子もいたりしてプレス担当みたいにやりたい、やろうっていう人もいるんですよ。僕は本当にそこが弱いから。粛々と自分の興味がある事を作り上げていくしか能力がないから、それをちゃんと見せていくって能力がないんですよね」
- 國時
- 「でも東京都も関わっているし公共的な一面も持っている訳だから、意識的にそこまでやってプログラムの完結とするべきだと思うな」
- 小川
- 「確かに発信みたいなのは弱いですよね。アーカイブをもっと魅力的に作るとか、こんな面白い事をやっていたんだって見せられたら良いですけどね。イベントなどの映像も全部撮ってあるんですよ。その映像を15、30秒にまとめて見られるようにしたいんですよね」
- 國時
- 「出来たらいいけど、実際に作業する人は大変だよね(笑)。展覧会の会場を探して、アーティストとやり取りして、本番迎えてお客さんの反応があって!という充足感と、イベントが終わった後、記録を整理して、WEBにUPして、ひょっとしたら英訳が必要だからやらなきゃ…みたいな仕事は、モチベーションを保つのが難しいというのは想像できる。商売じゃないしね」
- 小川
- 「テラッコは作家付き担当の他にも広報チーム、記録チーム、イベントチームと担当が分かれているんですけど、なかなか広報チームっていうのが難しいんですよね」
- 國時
- 「そうだね」
- 小川
- 「モチベーションがないというか、『私、何やってんだろう』みたいな感じになっちゃうのかもしれない。僕がやりたい事を後ろで応援しているだけみたいになっちゃったらそりゃおもしろくないよなと思いますけどね」
- 國時
- 「TERATOTERAのやばい活動を世界に伝える!そして自分がいずれ海外との窓口になり各地を飛び回る!!ていうくらい、でかいモチベーションがないとできないかも。でもそういう豪快な人はそもそもPCの前で継続的にちょこちょこ作業するのに向いてなさそう。どうしたらいいんだろう?例えば、アクセス解析ツールってあるじゃないですか?自分のサイトもそれで時々チェックするんだけど、見ている人が何人いるかわかるんです。それを見ると、海外の人も見てくれていて、『しかもロシア?』って(笑)。スイスのここで何分見ているとか、時間もわかって、『あの人か』ってわかっちゃう時もあったりして(笑)。そういうツールを使ってみるのもモチベーションに繋がるかもね」
- 小川
- 「話は戻りますけど、今後のビジョンとしては国際化。特にアジアに興味があって、アジアの作家が東京のアートプロジェクトに入ってくるみたいなのがやれたら良いと思うんです」
- 國時
- 「小川さんがこう言っている時はだいたい何か繋がりがありそうだよね?だから言う(笑)」
- 小川
- 「そうですね(笑)。東南アジアの国にはだいたい知り合いがいます」
TERATOTERAの国際化という今後の展望を語った小川。國時は国際化のために海外に向けて情報を発信する事の重要性を説きますが、2人とも広報という仕事はモチベーションを保つのが難しいと考えていました。TERATOTERAの過去と未来の話題を話した所でこの対談も終わりの時間が近づいてきました。最後に國時は小川さんが代表を務める「Art Center Ongoing」の将来について訊ねます。2人の対談が行われたのはこの施設の1階にあるカフェ&バースペース。Ongoingが7周年を迎える日の前夜でした。果たして、これからOngoingはどこに向かおうとしているのでしょうか…。
何かからポツンとはぐれてしまっている人が面白いんですよね
- 國時
- 「明日が7周年ですけど、最後にOngoingを今後どういう感じにしていくのか教えて下さい」
- 小川
- 「Ongoingも一緒ですね。今はレジデンスを始めて3年目なんですよ。今はイスラエルから作家が来ているんですけど、いろんな国から来るから勉強させられるんですよ。その国その国が抱えている問題、歴史をちょっと勉強しないと、話す事ができないし、そうすると、自分がいかに何も知らないかって思い知らされる事があって、それがすごく面白い。この歳になっていろいろ勉強するのが面白くて、Ongoingもどんどん国際化していきたいですね。あとはアートの文脈で国際化したくなくて、アートのコンテキストというか、ここのアートフェアに出せばもう一流とか、ここの美術館から呼ばれればすごいアーティストになるとか、そういうのはくだらないと思っていて、それよりかはもっと個人的なアーティストの繋がりや個人として面白いアーティストとどう繋がっていくかに興味がある。そういうネットワークを広げていけたら良いですけどね。結局、一緒なんですけどね。日本人のアーティストにしても有名なアーティストにやってもらったから嬉しいとかは全くなくて、この人と一緒に仕事をしたいって思いが全ての原動力になっていますね。だから海外との繋がりもどこどこに出ているあの人を呼ぶとかじゃなく、あいつと一緒に何か仕事をしたいみたいな感じで、それがもう少し広がっていったら面白いと思いますね」
- 國時
- 「なるほど。ところで、今アートをやっている20歳くらいの人たちでOngoingを目指している人っているのかな?」
- 小川
- 「どうなんですかね」
- 國時
- 「いると思うけど。いつかOngoingで展示!」
- 小川
- 「プレゼンには来ますね。『見に来て下さい』『やらせて下さい』という連絡もきますね」
- 國時
- 「Ongoingを目指している若者にむけて、小川さんがどういうものを求めているのかを聞きたい。これを読んでOngoingにくる人がいるかもしれない」
- 小川
- 「やっぱりアートの本質かもしれないけど、何かからポツンとはぐれてしまっている人が面白いんですよね。この世界でものすごく積み重ねて、今この人がいるとか、このジャンルの事は知り尽くしていて、こういう風にきたかとかじゃなくて『こいつは何なんだろう』『こいつのやっている事はアートなの?』みたいな人。文脈とかはぶっちぎっていて、自分の文脈をやっている人が良いですよね。なおかつ、人とコミュニケーションできる人。山奥閉じこもってやっていますとかは…(笑)」
- 國時
- 「本当にはぐれていたらダメなの?人間として迷っちゃっているのは?」
- 小川
- 「人間として迷っちゃっている人は難しいです(笑)。ちゃんと話ができて考えがわかる人。なおかつ、礼儀もちゃんとしている人。この人、こんな良い人だし、普通に働けばちゃんと働けそうなのに何でこんな事やっちゃっているんだろうなって人が好きなんですよね(笑)」
- 國時
- 「作品は相当やばいのにあいさつもできない、展示の日に来ないとか、そういうパターンの人もいるの?」
- 小川
- 「います(笑)」
- 國時
- 「それは断る?」
- 小川
- 「フォローできる所はフォローしますよ(笑)。言ってみれば、人の目を見て話せない人も多いですから。だけど皆礼儀は正しいですよ。作品がクレイジーだけど、生活はちゃんとしている人が多い」
- 國時
- 「そういえば、そういう人と話してイヤな思いはしないかも。突然、失礼な事を言われるような事がない」
- 小川
- 「Ongoingは人と人との関係性が重要だったりするので、あんまり失礼な人はいないですね。僕、そういう人が嫌いだから。そういう失礼な人、美術わかる奴だけがわかれば良いみたいな人もすごく嫌いですし、普通に話ができる人じゃないとイヤです(笑)。『作品はクレイジーに、人間は礼儀正しくあれ』みたいな感じですね」
- 國時
- 「こういう話って聞かれたりしないの?」
- 小川
- 「聞かれないですね」
- 國時
- 「じゃ貴重ですね。太枠で出します(笑)。でも結構すごいよね。常識人でもありつつ狂っているって(笑)」
- 小川
- 「本物の狂気かもしれないですね(笑)。二重人格じゃないですけど、どっちが本当なんだって」
- 國時
- 「常識人だけど、作品の話になった瞬間に目がやばくなったりとか(笑)」
- 小川
- 「皆、作品を作る事に関してはすごく貪欲ですね。寝ないでもやるし、作品のためにいつの間にかギャランティーの倍の費用を使っちゃったりする人も多いですね」
- 國時
- 「そっか。だから普段ちゃんと生活できないとやれないんだね。礼儀を持っていないと狂気に辿り着けないんだ(笑)」
最後は楽しく笑いながら2人の対談は終わりの時間に。この後、Ongoingにいたレジデンスや作家たちと飲み直した2人。小川に2回に渡ってTERATOTERAのこれまでの歩み、そしてこれからのビジョンを語ってもらいましたが、言葉の端々からはアーティストに対する愛情が強く伝わってきました。このコラムを読んでアートに興味を持った人はぜひTERATOTERAのイベントやOngoingへ遊びに行って下さい。10人のゲストに来てもらったこのコラムは今回で一区切り。國時のコラム途中下車の旅は終わりを迎えました。これまでご愛読頂きましてありがとうございました!
TEXT:下田和孝
小川希(おがわのぞむ)・TERATOTERA チーフディレクター/Art Center Ongoing 代表
1976年東京生まれ。2003年東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。2007年東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。2002年から2006年にわたり、横浜のBankARTや東京の廃校を舞台とし、1970年代生まれの作家を対象とした公募展『Ongoing』を主催。2008年に東京・吉祥寺に、芸術複合施設『Art Center Ongoing』を設立し、現在同スペースの代表をつとめる。